あの日

りーちゃんのこと、
しばらく綴らせてください。

りーちゃんを偲ぶことで
気持ちが少し落ち着くのです。

りーちゃんが天国へ旅立ってしまった、
あの日。

あの日はいつものように
朝5時頃、目が覚めました。

りーちゃんが病気になってからは
朝の様子が気がかりで
もともとは朝が弱い私ですが
早くに目が覚めるようになっていました。

窓を開けると、青葉がとってもきれい。

りーちゃんはいつもどおり
きちんとトイレを済ませて、
その後、お水を少し飲んでくれました。

日課になっている朝の酸素吸入をしに
抱っこして病院へ降りて行きます。

診察台に置いた
お気に入りのベッドの中で
酸素を吸うりーちゃん。

呼吸が落ち着いてラクになったのか
目を閉じています。

寝てるのかな?
休んでくれたらいいな、と
可愛いお顔を眺めていたら
りーちゃんが、ふと、目を開けて
こちらを見ました。

その時、
いつもより目が潤んでいて
涙がいっぱいたまっていました。

「吸入が終わったらお目目、拭こうね。」

涙やけが出来ないように
仔犬のころからしょっちゅうしょっちゅう
お目目を拭いていましたが
零れ落ちそうなくらい
涙をためていることは珍しくて
ちょっと不思議に感じました。

一緒にいた母も、
その時同じことを感じたそうです。

1時間の酸素吸入が終わり
りーちゃんと2階に戻りました。

「りーちゃん、2度寝、しようねー。」

りーちゃんも私も2度寝が大好き。
みんなで一緒にベッドにもぐりました。

元気なころは
先生か私の脇に頭をのせて
寄り添って寝るのが常でしたが、
病気が進んでからは
平らなところにうつ伏せになる方が
呼吸が落ち着く様子だったので
この時は仰向けになった私の胸の上に
りーちゃんを寝かせました。

りーちゃんの可愛いお顔を、よく見たかったから。

酸素を吸ってラクになったりーちゃんは
早速スヤスヤと寝てくれました。
安心した私も、そのうちにウトウト。

1時間くらいして、先生が起きだしました。

私はまだ眠くて眠くて。

りーちゃんを見ると引き続き
胸の上でスヤスヤ寝ているので
私ももう少し寝ようと、またウトウト。

それからしばらくして
モゾモゾ動くりーちゃんの気配を感じ
目が覚めました。

抱っこして、時計を見ると7時50分。

「おトイレ?お水、飲む?」

手伝ってもらおうと、
リビングにいる先生と
母を呼びました。

まずはおトイレかな?

「りーちゃん、どうする?
チーしてみる?」

話しかけながら
腕の中のりーちゃんを見ると
なんだか顔つきがさっきと違います。
目に元気がない!

「りーちゃん?どうしたの?」
「りーちゃん?」
「りーちゃん!りーちゃん!!りーちゃんっ!!!」

みんなの呼びかけに
一瞬こちらを見たりーちゃんは、
すぐ目を瞑ってしまいます。

「りーちゃん?」
「どうしたの?」
「先生、りーちゃんが・・・なんかいつもと違う・・・。」
「りーちゃん!!」

すると先生は

「りーちゃんに、お礼とお別れを言ってあげて・・・。」

涙声でそう言います。

え?え?
どうして?
なんで?

昨夜もわずかながら
さくらんぼや生クリームやチーズを食べてくれたし

明け方の様子もいつもと変わりなかったし
トイレも自力で出来るし

さっきまであんなにおだやかに
スヤスヤ寝ていたのに!

なんで?
どうして?

頭が、気持ちが
今の状況を理解できない。

でも
でも
腕の中のりーちゃんは
どんどん体の力が抜けていってしまいます。

ああ、りーちゃんが、天に召されてしまう・・・。

「りーちゃん!!」
「りーちゃーーーーーーん!!」

りーちゃんに聞こえるように
お礼を言わなくちゃ!

「りーちゃん、ありがとうね!」
「りーちゃん、大好きだよ!」
「りーちゃん、うちに来てくれてありがとうね!」
「りーちゃん、たくさん幸せくれたね!」
「りーちゃん、ずっと一緒だよね!」
「りーちゃん、本当にありがとう!!」

みんなでいっぱいいっぱいお礼を言いました。

するとりーちゃんは
目を開けて
こちらを見て

ゆっくりと
大きく
2回
お口を開けて
深い息をしました。

そうして

眠るように

目を閉じました。

「りーちゃん?りーちゃん?りーちゃん?」
「りーちゃーん!!」
「りーちゃーーーーーん!!」

もうどんなに呼んでも
りーちゃんは目を開けてはくれません・・・。
起きてはくれません・・・。
可愛い大きなお目目で
見つめてはくれません・・・。

りーちゃんは
とうとう
天国へ旅立ってしまいました。

お空のお星さまになってしまいました。

覚悟はしていたつもりでも
淋しくて淋しくてたまらない。
こうして書いている今も
淋しくて淋しくてたまりません。

私は思っています。

最後の酸素吸入のとき
りーちゃんが
目に涙をいっぱいためていたのは、

遺される私達を
心配してくれていたのだと。

そして
私は信じています。

りーちゃんが
最後に
ゆっくりと
大きく
2回
お口を開けたとき・・・

りーちゃんは、きっと

「みんな、ありがとう!」
「私、幸せだったよ!」

言ってくれたのだと。

そう信じることで
悲しみが少し和らぐのです。

りーちゃんは
最後まで本当に孝行娘でした。

家族みんなが揃って居る
あの日の
あの時間を選んでくれて。

みんなに見送らせてくれて。

わたくしどもの切なる願いだった
なるべく苦しまないで欲しいと云う思いにも
精一杯応えてくれて。

最後の望みだった
腕の中で看取ることを
かなえさせてくれて。

本当に、本当に、素晴らしい孝行娘でした。

りーちゃん、ありがとう!
最愛の妹、りーちゃん。
ありがとう!!!