前回鎮静剤だけで歯科処置を行なうことも多いと書いたところ、これに関する複数の問い合わせをいただいたので、この場で新たに補足説明致します。
動物(主に犬や猫やウサギやハムスター)を対象に、じっくりと口腔内を観察したり、残存する乳歯を抜歯したり、歯石を除いたりする場合、患者である動物の安全性を確保しつつ、術者の作業を迅速かつ確実に行なう為には、「患者の不動化」は必須です。
その際、不動化を得るためにどのような処置を選択するのかは獣医師個人の経験に大きく左右されますが、大きく分けて2つの方法に集約されます。
1) 全身麻酔による完全な無意識下でおこなう。
2) 鎮静催眠剤や鎮痛剤の併用等により、意識を消失することなく、患者の動きを最小限に抑えて行なう。
この2番目の方法が一般にセデーションと呼ばれるもので、全身麻酔に比べると循環器や呼吸器に対する負担が少なく、全身麻酔のような、厳密かつ完全な麻酔管理を必要としません。なによりある程度の意識が保たれ高齢動物にも安全に使える、麻酔事故のリスクが限りなくゼロに近い、といったところが最大の特徴です。
したがって一般論として、入院を必要としない日帰りで行なわれるキズの縫合や、組織の生検、前述のスケーリング等に適しています。
一方、口腔内に発生した悪性黒色腫の切除、ガマ腫の切開、下顎骨折の整復手術など、より侵襲性の高い手術や長時間を要する複雑な手術では、セデーションのみでは事実上作業が不可能であり、全身麻酔が必要です。
かなりおおざっぱな言い方になってしまいましたが、いずれの方法も一長一短あり、臨床の現場では個々の状況に応じて使い分けています。
当院では、歯石の除去やウサギの過長歯のトリミングなどは基本的に入院は必要としない(=日帰り可能)処置とみなし、その際には特別な事情のない限り、鎮静剤の投与のみ、もしくはこれに鎮痛剤を併用することで、高い安全性を確保しています。