臨床経験を積むということは不思議なもので、20年近く同じ仕事を繰り返していると、ある種のカン(=第6感)が働くようになります。なかなかコトバに出して表現するのは難しいので、私の感じるままに幾つか体験談をお話し致します。

①顔色から病状がわかる

人間なら当たり前の話ですが、犬や猫の顔色ってあるの・・・そう思われるのは当然ですが、私に言わせれば明らかにあります。そもそもヒトの顔も動物(犬猫)の顔もその大半は内臓筋由来の表情筋ですから、顔を見ることは内臓を観察することと同義です。大学時代内科の教授がよく言われていた「内科診断の基本は視診・触診・聴診」の意味がいまごろ良~くわかるのだ。

②術前に正確な麻酔投与量がわかる

麻酔は危険を伴う医療行為で、ヒトのような麻酔専門医が存在しない獣医師の世界では、安全確実な麻酔手技は臨床医に絶対不可欠なもの。術前に体重や年齢、全身の状態、既往歴を考慮しつつ計算から決める事が習いになっていますが、動物に不要な興奮や不安を与えることなく円滑に導入することは意外と難しい。大学時代は計算値だけでは足りなくて興奮させてしまったり、過量から心室性不整脈を誘発したりと苦労しました。以来安全確実な麻酔導入をライフワークにしてきたせいか、今日も仕事は絶好調!最近は動物も麻酔導入時はかなり気持ちいいんじゃないか、と思ったりします。(^_^)v

かつて外科のW教授(いまでは麻布大学の名誉教授かな)に動物実習のあと麻酔のコツをしつこく聞いたことがありました(生意気な学生でゴメンナサイ!)。そのときの先生の言われたひと言はきわめて衝撃的!
「Dog per face!」・・・体重や検査データや既往歴に留意するのは当たり前、そのときのワンコの顔色をみて最終的な投与量を判断しなさい・・・。
この薀蓄が私もわかるようになりました。今度若尾先生に学会でお会いしたら昔話に花を咲かせたい!

③ノラネコの性別がわかる
長く行動を観察していればわかるのは当然ともいえますが、これは瞬間的な話。ポイントは歩き方にあります。♂猫には♂猫の歩き方があり、♀猫には♀猫特有の歩き方があります。
かつて代診していた頃、都内で開業している大先輩にこの話をはじめて聞いた時、”なんだかいいかげんなことを言っているなあ~、”と思いながら、適当に受け流していました。

当時は、「つまるところ動物はコトバを使えないわけで、どんなちいさな変化も獣医師側は見逃すな!」という戒めの言葉と勝手に解釈していましたが、最近は公園などの地域猫を一目見ただけで、まず性別は正確に判断出来ます。
文字どおり、一瞥で猫の性別がわかる、経験とはそんなものです。