がんより怖い血栓症

今年の冬は異常に寒い。例年に比べ雪は結構少ないのに、連日最高気温が零度以下。いわゆる「真冬日」です。こう寒くなると、がぜん増えてくるのが猫の膀胱炎と動脈血栓栓塞症。

膀胱炎は命までもっていくことはないのでこちらとしても怖くありませんが、問題は動脈血栓栓塞症。これって致死率けっこう高いんです。

動脈血栓栓塞症とはじつにいかめしい名前ですが、要は一時期脚光を浴びた人のエコノミークラス症候群の動物バージョンと考えると理解しやすいと思います。

ただ、人とは血栓の詰まる場所が大きく異なり、猫では腹部大動脈から腎動脈や仙腸動脈などの分岐部に血栓が詰まりやすく、発症するとみんな後ろ足が麻痺して急に歩けなくなります。

詰まる場所がほぼ決まっている(=前述の大動脈分岐部)とはじつに不思議な話ですが、一説によるとここの血管の分岐角度と内径が血栓を引っ掛けやすい角度・構造になっているとか。

もっとも、血栓が発生・成長する過程は100年も前にウイルヒョウという病理学者によって解明されています。

それでも猫の血栓症は医学的に不明な点が非常に多く、あまたの成書をひもといても統一した見解がなく、じつは標準的な治療方法もいまだ確立されていません。

したがいまして、臨床の現場ではヒトでの治療法を猫にあてはめて行うといういわば手探りの状態。血栓溶解剤など高額な医薬品を使って手厚い看護を施しても致死率の高いこの疾患は、動物はもちろん獣医師にとってもかなりのストレス。今後の研究・解明が急がれる疾患だと思う。

ちなみに「がんより怖い血栓症」とは、近年人医の世界で血栓症の恐ろしさを表現するさいによく使われるコトバだそうです。