完全無血(?)の外科手術 その①

「外科手術」と聞くとまるで血の海のなかで奮闘しているイメージがありますが、じつは術中の出血は非常に少ないのが現実。例えば猫の避妊手術でも実際の出血量は数滴に満たないのです。去勢に至っては事実上出血量はゼロ。なぜか。

その理由は明確で、レーザーメスや電気メスが手術器具として普及したことによります。もちろん従来の鋼製のメスを好む先生もいますし、手術部位によってはレーザーや電気メスが使えないことも多々あります。

ただし、小さな動物では予期せぬ出血が命取りになりかねない事、動物では輸血が容易でない事、輸血による血清肝炎がおこる可能性が高い事、などを考えて、ある程度外科をこなす病院では、まずこれらの機器が導入されています。当院でもレーザーメス、電気メス、超音波メスに加え、ベッセルシーリングシステム(直径7mmまでの動脈・静脈を自動的にシールして止血するスグレモノ)まで導入して、徹底したリスク管理に備えています。ここまで凝ると基本的にヒトの手術室と大差はなくなります。

ところで全身をめぐる血液の総量はどのくらいかご存知ですか?生理学上の有名な法則があって、動物種に関係なく体重の13分の1が総血液量になります。血液の比重を便宜上1とみなすと、例えばトイプードル(2.6kg)の全血量が200cc(コップ一杯!)、1.3kgのチワワに至ってはわずか100cc(コップ半分!)、650kgの乳牛ならば50リットルとなります。

1.3kgのチワワの全血液量がわずか100ccというのは、手術をする獣医師にとって非常にストレスです。全血量が少ないだけに、完全無血の手術手技が求められます。「確実な止血」を行なえないと当然リスクは倍増します。そこで登場するのが前記のレーザーメスや電気メスを組み合わせた最新の医療機器。非常に高額な機器になりますが、それだけに信頼性は高く、ほとんど全ての手術が完全無血(?)の安全な手術が可能となります。

というわけで、実際の手術はほとんど出血することはありません。