当世動物病院事情①

動物の高齢化にともなって、最近は悪性腫瘍を患うケースが増えています。ひと言で悪性腫瘍(=ガン)といっても、ごく初期のものからはじまって、末期の癌性腹膜炎までその症状はさまざま。もちろん末期的な状態でようやく来院した場合には、こちらとしてもオピオイドで痛みをのぞくとか腹水を抜くくらいの対症療法しか打つべき手がないのが現実。

その一方で、「外科手術」もしくは「外科手術+化学療法」によってわりと良好な予後を期待できるケースもあり、この場合当然ながら獣医師として手術なり化学療法(=抗がん剤投与)なりに力点をおいて説明することになります。

大半の飼い主さんはこれらの内容に一定の理解を示し現実的な対処を希望しますが、なぜか一部の飼い主さんの中には、「手術は痛くてかわいそう」とか「抗がん剤の適用は副作用が怖い」、はては「この子はナイーブで入院なんてとても出来ない」といった合理性を欠く理由で、その先の一歩を踏み出せない方がいます。

もちろん最終的な決定は飼い主さんによってなされるべきであり、熟慮の末に判断するという態度そのものに私は何の異論もありませんが、本当に「手術は痛くてかわいそう」なのでしょうか?「抗がん剤の適用は副作用が怖い」のでしょうか?「命にかかわる病気なのに入院ができない」なんてことがあるのでしょうか?

獣医師の立場で言わせてもらえば「術前・術中・術後を通し鎮痛薬の使用が広く普及した現代、動物が痛みで七転八倒することはありません」し、また先入観にとらわれ過ぎて抗がん剤の適切な使用を必要以上に怖がり、その結果治療の機会を逸してしまいかねません。まして「入院出来ない」とか「自宅療法に限定したい」なんて、どう善意に解釈しても自己都合としか思えない。それこそ本当に”動物がかわいそう・・・”。助かる命も助かりません。

いざという時、現実を見据えて愛する動物のために冷静な判断を下せる飼い主であってほしい、・・・一獣医師としての切なる願いです。