見た目がすべて・・・②

「見た目がすべて」という分野が、獣医学にはもうひとつだけあります。臨床からはちょっと離れますが、病理学の世界。
「病理学とはすなわち形態学である」とは、たしか近代病理学の祖にして世界的な病理学者ウィルヒョー(ドイツ)の言葉だったと思う。

学生時代、病理のN教授には実習でしごかれたものです。

N教授:「菊池君、暴走族を見たことあるよね?」

私:「はい、よく夜の湘南にたむろしています。」

N教授:「なぜ彼らが暴走族とわかるんだね?」

私:「え、・・・でも、見るからに暴走族なんで・・・」

N教授:「そう、そこが大切。暴走族は暴走族らしい姿格好で暴走しているからこそ、暴走族なのだ!コタツで静かにミカンをむいていたらどこぞのいい息子で、誰も暴走族とはいわない。
ただし、観察眼を鋭くしてみていたら、その仕草や髪型から、ひょっとするとこいつはただものじゃない、暴走族もしれない、くらいの想像はつくだろう。」

私:「どういうことでしょう?」

N教授:「つまり病理診断もこれとおなじこと。基本は細胞の形態観察からその細胞の振る舞いを読みとること。見るからに悪性腫瘍という細胞が観察されれば診断は容易だが、一見悪性には見えなくとも、実は悪性ということもある。もちろんその逆の場合もある。そこに病理診断の難しさがある。この判断の難しさこそが、みなが病理嫌いになるところ。」
たしかに基礎医学系で病理学はもっとも難解な科目です。

N教授、病理学の大家だけに例え話がスゴイ。以前は暴走族を見るたびにN教授の顔を思い出したものですが、さすがに最近は暴走族自体が減ってしまい、思い出す機会もめっきり減ってしまいました。
なんだか、少し淋しい・・・。