世間は朝から晩までSTAP細胞の件で盛り上がっていますが、
獣医師の間ではもっぱら新しく発売された2つの薬剤が関心を集めています。
厳密に言えば、すでにひとつは年末に発売済みですが、
もうひとつは日本にすでに輸入されていますが発売まではあとひと月かかるとか。

すでに発売された薬剤のほうは、新しい麻酔導入薬「アルファキサン」。
麻酔導入薬といえば、医師も獣医師もひたすらプロポフォール一辺倒でしたが、
今回はステロイド系麻酔薬という全く新しい薬です。

厳密に言うと、この薬は1970年代に一度発売されています。
開発者はオーストリアの内分泌専門医ハンス・セリエ博士。
当時は麻酔薬そのものではなく、その溶剤に対する技術的欠陥から、
医師向けも獣医師向けも相次いで発売休止に至りましたが、
21世紀の化学合成技術でみごと復活しました。

プロポフォールはいい薬ですが、マイケルジャクソンの事故といい、
文春の今週号に掲載された女子医大の事故といい、大きくイメージを損ないました。
個人的には大好きな薬ですが、製薬会社の担当者に言わせると、
少なくとも薬理学的な比較では、ステロイド系麻酔薬のほうが安全性が高いとか。
今後獣医師の麻酔の世界では主力になるのかなあ。

ちなみにヒトでは麻酔薬としての承認を得るためには莫大な経費と時間が
かかるようで、当面は獣医師だけに発売が許されるみたい。

ところでもうひとつの薬剤は、抗がん剤の一種である「分子標的薬」。
いままでヒト用の分子標的薬を動物に転用していましたが、今回の薬は開発過程で、
「この分子構造は犬の肥満細胞腫(=悪性腫瘍)に絶対効くはずだ!」
という研究者の信念と直感に基づいて商品化された優れもの。

動物専用に開発された分子標的薬の今後の臨床応用が楽しみです。