3月 ×日(晴)          

今月の日本獣医師会雑誌にオオカミに関する研究論文が掲載されていました。

この雑誌はちょっと退屈なことで有名な(?、ゴメンナサイ、私の個人的な感想です)雑誌ですが、時々非常に面白い内容の論文が掲載されます。

今回の論文は非常に興味深く、岐阜大の研究者が日本各地に残るニホンオオカミとエゾオオカミの骨や剥製の毛からmtDNA(ミトコンドリアの中の遺伝子)を採取し、これを現在生存するヨーロッパのオオカミや国内に普通に暮らす犬と比較するという壮大な内容。

これによれば、ニホンオオカミと紀州犬、シベリアン・ハスキーはかなり遺伝的に近縁だという。
日本各地には、今も古老を訪ねると、紀州犬とオオカミの交雑があったとする伝承も多く残っているらしいから、今回の遺伝子レベルでの解析結果を考えると、やはり紀州犬やハスキーはオオカミの親戚なんだろう。

それにしても、この研究者も言っていましたが、ニホンオオカミやエゾオオカミを失ったことは非常に残念だと思う。

個人的には、現在の犬と比較する意味でも、一度ニホンオオカミなり、エゾオオカミを診療してみたかった。

4月1日(晴)          

先日まで肌寒いと感じていたのに、早いものでもう4月、桜の季節になりました。

今まで勤めてくれたベテランスタッフのIさんが3月末日をもって寿退社となり、本日から新人を含めて新たな体制で出発です。

Iさんは5年ほど在籍しておりましたが、大変明るい性格で愛情をもって動物に接しておりましたので、多くの飼い主さんから頼られ、当院としても非常に信頼しておりました。

Iさんの愛犬MAXちゃん

動物病院のスタッフとして働くうえで最も大切なことは、なにはともあれ動物が大好きであること・・・彼女の仕事への熱意と、動物への尽きることのない愛情をもって長年当院に勤めてくれたことに、今も心から感謝しています。

5月×日(晴)          

「愛犬・愛猫を長生きさせる7ヶ条」というのがあるのをご存知ですか?

某製薬会社が作成して病院に配布していますが、適切な内容だけに、改めてここでも紹介させていただきます。

1、ワクチン接種・フィラリア等の予防を欠かさない。

予防できる病気は確実に予防することで、病気になるリスクは激減します。

2、子犬子猫をとる予定がなければ去勢・避妊手術をする。

前立腺の病気や乳腺・子宮の病気のリスクが軽減します。

3、太らせない。

肥満は、ヒトでは古くから知られている病気のリスクです。

4、正しい食事管理をする。

意外とこれが難しい・・・。要求されるままにおやつをあげてませんか。

5、歯石をためない。

動物も歯が命!小型犬では、歯を守ることは心臓病予防にも繋がります。

6、ストレスをためない。

正しいしつけやコミュニケーションはストレス軽減に役立ついいます。

7、6歳を過ぎたら定期健診を欠かさない。

簡易検査でも結構ですから、最低でも年1回は受けましょう。

5月×日(晴)          

最近、イヌの脳をfMRI(機能的磁気共鳴画像)装置でスキャンし、イヌが「何を考えているか」を研究する試みが進んでいるらしい。

イヌの脳をスキャンすることで、「人間の最良の友」の心の中で何が起こっているかがわかるかもしれないということです。

研究の中心はもちろん日本ではなく、米国のエモリー大学の脳神経科学者チーム。ちなみにこの大学はジミーカーター元大統領の母校です。

日本人には、あの日野原重明氏(聖路加病院の院長)の留学先としても知られており、総合大学でありながら特に医学・生物学系でかなりユニークな成果を挙げているとか。

日本ではあまり知られていない大学ですが、米国では競争倍率の高さから最難関大学のひとつにあげられているみたい。

なぜか教授陣に愛犬家がとても多いともいわれています。

6月17日(曇)          

某大手外資系製薬企業が特別に招待するパスートセミナー(皮膚科・循環器科)に行ってきました。

会場はパシフィコ横浜国際会議場でしたが、近くでアニメの祭典があったみたいでちょっと混雑。混雑はともかく、涼しい軽井沢から出掛けると、じっとりした暑さに参りました。

セミナー開催に際して米国人社長が 「私の日本語、Bad (ToT)」、といいながらも意味の通じる日本語での挨拶に感心。
その社長曰く、「当社の製品(=心臓のお薬)は世界35ヶ国で発売されており、うち日本市場はフランスに次いで世界第2位、日本の皆さんには大変感謝しています!」。


それにしても動物専用の心臓病治療薬が、それもけっして安くない薬剤が、世界35ヶ国で発売されているとは驚きです。
高価な動物用医薬品が流通するのは動物愛護思想の浸透した先進国のみ、と私自身はアタマから信じ込んでいましたから。

お昼はランチを兼ねた立食パーティーだったので、この35ヶ国がどんな国々なのか会社幹部の方々によほど訊いて見ようかと思いましたが、セミナーの内容とも趣旨とも直接関係ないだけに、思いとどまりました。でも今度担当者が当院を訪れた際には、ぜひ訊いてみたいなあ!

6月×日(曇)          

ギリシャ危機と並んで報道されることが多いシリアの内戦ですが、ここに生涯をささげた有名な獣医師がいます。政治家をはじめ日本人の劣化は著しいけど、かつては立派な日本人も多かったのかな?
いい話なので、以下毎日新聞からの抜粋記事です。
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発信箱:シリアと獣医師=小倉孝保(欧州総局)
毎日新聞 2012年06月13日 00時04分

 内戦の危機さえ叫ばれるシリア情勢をみるにつけ、この国の家畜衛生に生涯をかけた獣医師、折田魏朗(ぎろう)氏を思う。
 鹿児島で獣医師となり1964年10月、日本獣医師会からの要請で、妻と一人息子の節(みさお)さんとともにシリアに渡った。以来、トルコ国境に近いアレッポを拠点に海外技術協力事業団(OTCA)の専門家として、主に羊の育成に取り組んだ。
 シリアに入って、しばらくすると妻は体調を崩し帰国、節さんは病死した。それでも本人はシリアを離れず、羊のお産となると200キロ離れた草原まで車を走らせた。しだいにその獣医学知識の深さと熱心さは聞こえ、隣国からも遊牧民がバスで大挙して教えを請いに来るほどになった。
 レバノン内戦(75~90年)中、車のボンネットに大きく「ドクトル・ヤバーニ(日本人医師)」と書いて、銃声の響く紛争地を通って家畜の出張治療に出かけた。「大臣から八百屋のおじさん、草原の遊牧民にまで愛された」といわれる折田氏である。ドクトルが通るときだけ、双方が撃ち合いをやめ、車を通したとの逸話も残る。
 シリア人以上にシリアを愛したサムライは08年11月、84歳で生涯を閉じ、今は節さんとともにアレッポの墓地に眠る。

 私は生前、1度だけ折田氏に会ったことがある。穏やかな笑みを絶やさぬ好々爺(こうこうや)。「特攻隊で死のうと思っていました。拾った命なのでね……」。折田氏がのみ込んだ言葉は「何か他人のためになることがしたかった」か。控えめな物言いに品性の高さ、心根の強さがにじんだ。
 折田氏の努力もありシリアの羊肉は今、中東でも抜群にうまいとされる。そのシリアの危機を泉下の折田氏はどう思うだろうか。「バカもほどほどにせえよ」。寂しげな声が聞こえる気がする。

8月31日(晴 )          

ようやく落ち着いたので、久しぶりに更新しました。
夏は仕事が忙しいのもありますが、今年はロンドンオリンピックを観て疲れてしまい、なかなか更新できなかった・・・。

ところでロンドンといえば、先日英国の新聞でこんな記事を見つけました。

以下、報道からの抜粋です。

英紙デイリー・メールやサンなどによると、この男性は英南西部の街スウィンブリッジで暮らす34歳の外科医、ベン・ウォーターフォールさん。先日、庭の掃除を行っていた彼がふと目をやると、8歳のカメ“アトラス”が屋外に用意したコンクリート製の水飲み場で後ろ脚だけを外に出し、頭を水の中につけて動かなくなっていた。様子がおかしいと感じた彼が持ち上げると、アトラスは呼吸を止めた状態で「完全に力を失っていた」という。

呼吸が止まり一刻を争うアトラスのために、彼は人間と同じように人工呼吸を開始。最近は事故などに遭遇した犬や猫に対し、人間の口やボンベを使った人工呼吸が行われる事例は少なくないが、カメとなると珍しいケースかもしれない。とはいえ、彼の手の上に乗る程度の大きさしかないアトラスに行うのは、当然ながら人間にするのとは全く勝手が違った様子。そこでアトラスの小さな頭全体をそのまま口の中へ突っ込むと、「鼻孔に向けて」息が入るよう人工呼吸を行ったという。

必死の人工呼吸が行われること、約6分。飼い主の愛情が通じたかのように、アトラスはやがてゆっくり自発呼吸を始めると、「まばたきをして」意識の回復を知らせてくれた。とりあえずペットを窮地から救ったウォーターフォールさんは、医者らしく冷静に検査を行ってもらおうと近くの動物病院へ急行。幸いアトラスは抗生物質の投与のみで済むほど落ち着いた状態で、事情を聞いた獣医は人工呼吸を行った彼に「よくやったな」と言って笑ったそうだ。

さすが英国、動物愛護思想の総本山だけのことはありますね。
獣医師の私も脱帽です。

9月1日(雨)          

夏の軽井沢はどこに行っても渋滞にはまりますから、ここ2ヶ月はほとんど家から出ない(というより、出られない!)生活をしていました。
実際、7月・8月は2階の自宅と1階の動物病院をひたすら往復する修行僧のごとき生活なのだ。

昨日になって、ようやくうちの近くのミュージアムに出かけました。
じつはあまりにも家にこもって居たせいか、このミュージアムが出来ていたことすら知らず、たまたま招待券を頂いて初めてその存在を知った次第。

久しぶりの外出はとてもすがすがしく、軽井沢に住んでいながら、改めて軽井沢の良さを実感しました(*^_^*)。

12月  ×日(曇)          

パソコン化する医療機器 ②

当院で汎用する機器のなかで、ほぼパソコン化、というかパソコンそのものといっても差し支えない機器が眼底カメラです。

眼底像検査時、動物はどうしても動いてしまうため、今まで撮影が非常に困難を伴いましたが、今は携帯カメラの要領で大量に撮影し、それらから取捨選択し、画像処理を加えて、格段に診やすく診断精度も上がりました。

動物の眼底像はひとつとして同じものがなく、また左右を比較しても結構異なっており(非対称性)、非常に不思議な世界です。

ヒトと比べてもタペタムという輝度の高い美しい組織があり、指紋と同じくらい多様性に富んでいます。たとえるなら無限の宇宙を眺めるようです。

11月  6日(晴)          

パソコン化する医療機器 ①
久しぶりに学術講習会に行ってきました。
ブレイクタイムにある医療機器のブースを覗いて見たら、やたらときれいな画像のエコー(超音波診断機器)が展示してあります。
いろいろと説明を訊いていじっていたら、新機能満載、う~~~ん、やっぱりほしくなってきた。
ここ数年で、エコーのディスプレイはみんな液晶になって、以前のブラウン管は完全に消えました。液晶TVと従来のブラウン管TVを比較するまでもなく、エコーも液晶になって、画質向上は当然といえば当然!

さまざまな設定がほとんどパソコンと同じ操作で行われ、実際いくつかの機種では、マウスを接続するポートも設置され、画像の保存はハードディスクや外づけのUSBになりました。こうなると付属のプリンターは必需品ではなくなります。

そして一番の進化は、機器の軽量化とデジタル情報の一元管理が可能なソフトが組み込まれていること。このソフトは非常に高くつくのでまだまだオプション扱いですが、近い将来、ことによったら2~3年後には、価格帯も抑えられるでしょう。そうなったら、市中の一般病院でも医療関連画像を含む一切のデジタル情報は簡易サーバーで集中管理される時代になると思う。

というわけで、当院で今まで使っていたエコーもそろそろリース契約が終わる時期なので、あらたに最新のエコー(GE社製)を導入することに決めました。 (*^_^*)

今まで働いてくれたエコーよ、本当にありがとう!
そしてあらたにこの病院で頑張ってくれることになった新エコーよ、先代以上の活躍を期待しています! (*^_^*)

実際の納入は来月になってしまいますが、それまではデモ機に働いてもらいます。