6月 ×日(雨)
完全無血(?)の外科手術 その②
実際の手術での止血方法には以下の3種類があります。
1.血管を糸で縛る。
2・血管内皮のコラーゲンを変性させて、シールしてしまう。
3.血管をクリップで留める。
最初に挙げた糸による縫合は原始的ではありますが理にかなった方法で、最も一般的な止血方法です。ただし、一部の犬種では糸に対する異常な免疫反応から、「術後縫合糸肉芽腫」を生じることがあります。
以前は数千件に1件といわれていましたが、最新の研究では、ダックスやチワワには200~100件に1件の割合で発生していると言われています。絹糸が原因のことが多いのですが、中には理論上組織反応の生じないとされるナイロン糸でも発生報告が相次いでいます。これは深刻な問題で、先月日本獣医師会雑誌でも注意喚起を兼ねて大きく取り上げられていましたが、実は臨床家には10年くらいまえから、「好ましくない糸反応」として認識されていました。発生予防策は、”なるべく原因物質、すなわち縫合糸を体内に残さないこと”に尽きます。
縫合糸をできるだけ体内に残さず、なおかつ効果的に止血をする、・・・この問題解決に役立つものが、2番目に挙げた方法。電気メスの持つ凝固機能(=凝固切開、スプレー凝固)に加え前述のシーリングシステムを効果的に使う事で、縫合糸肉芽腫の心配をすることなく出血を抑制できます。

また、絶対に出血させてはいけないとき、あるいは血管のコラーゲン量が少なくてシーリング状態に不安が残る場合には3番目の方法が適用されます。材質はチタン合金もしくは特殊樹脂。ちなみにこの特殊樹脂で出来たクリップは約180日で体内で吸収されて消失します。もちろん金属アレルギー体質にも適用可。最新の機器だけに信頼性が高いのですが、ハイコスト(1玉=数千円!)という難点があります。事実外科に傾倒しているマニアックな先生が持っているくらいで、獣医療にはあまり普及していません(個人的にはこの方法が好きですが・・・)。
ところで「術後縫合糸肉芽腫」はヒトの世界ではほとんど問題になることは無いようで、発生も極めて少ないとか。業者によれば、絹糸も帝王切開時の縫合等に普通に使われているようです。逆に考えれば、犬では免疫機能に異常を有する個体が、ヒトよりもずっと高い割合で存在するということかも知れません。とくに従来Mダックスの特定の血統に多発することが知られており、乱交配が危険性を高めるとも言われています。
ちなみに脅かすわけじゃありませんが、Mダックスやチワワ、柴犬、シュナウザーは好発犬種です。いずれも現在国内で非常に人気の高い犬種だけに数も多く、私自身手術に際しては細心の注意で臨んでいます。
5月 ×日(雨)
完全無血(?)の外科手術 その①
「外科手術」と聞くとまるで血の海のなかで奮闘しているイメージがありますが、じつは術中の出血は非常に少ないのが現実。例えば猫の避妊手術でも実際の出血量は数滴に満たないのです。去勢に至っては事実上出血量はゼロ。なぜか。
その理由は明確で、レーザーメスや電気メスが手術器具として普及したことによります。もちろん従来の鋼製のメスを好む先生もいますし、手術部位によってはレーザーや電気メスが使えないことも多々あります。
ただし、小さな動物では予期せぬ出血が命取りになりかねない事、動物では輸血が容易でない事、輸血による血清肝炎がおこる可能性が高い事、などを考えて、ある程度外科をこなす病院では、まずこれらの機器が導入されています。当院でもレーザーメス、電気メス、超音波メスに加え、ベッセルシーリングシステム(直径7mmまでの動脈・静脈を自動的にシールして止血するスグレモノ)まで導入して、徹底したリスク管理に備えています。ここまで凝ると基本的にヒトの手術室と大差はなくなります。
ところで全身をめぐる血液の総量はどのくらいかご存知ですか?生理学上の有名な法則があって、動物種に関係なく体重の13分の1が総血液量になります。血液の比重を便宜上1とみなすと、例えばトイプードル(2.6kg)の全血量が200cc(コップ一杯!)、1.3kgのチワワに至ってはわずか100cc(コップ半分!)、650kgの乳牛ならば50リットルとなります。
1.3kgのチワワの全血液量がわずか100ccというのは、手術をする獣医師にとって非常にストレスです。全血量が少ないだけに、完全無血の手術手技が求められます。「確実な止血」を行なえないと当然リスクは倍増します。そこで登場するのが前記のレーザーメスや電気メスを組み合わせた最新の医療機器。非常に高額な機器になりますが、それだけに信頼性は高く、ほとんど全ての手術が完全無血(?)の安全な手術が可能となります。
というわけで、実際の手術はほとんど出血することはありません。
5月 ×日(雨 )
きょうはフェレットのシマジロウがやってきた。7歳になるおじいさんフェレットで、今までは病気らしい病気はしたことがないのですが、最近尿意が近くなってきたな~、と思っていたら、昨夜は一滴もオシッコが出なくなったとのこと。
さっそく腹部を触診すると、ゴルフボール大まで大きくなって硬度を増した膀胱に触れました。やばいな、こりゃ。完全な尿閉です。改めてエコーで再確認したところ、2~3mm大の結石が5つほど確認出来ました。高齢で雄のフェレットは尿石症が多いんです。
すぐに膀胱穿刺(=おなかから直接膀胱に針を刺すこと)を行なって尿を除いたら、今度は麻酔を導入して尿道カテーテルをなんとか通しました。フェレットの尿道は非常に細く、また陰茎骨に阻まれて挿入すること事態が難しいので、テキストによっては「尿道カテーテルの挿入は事実上不可」と記載されていますが、通らなければ緊急にお腹を開けざるを得ないので、きょうは私、意地で通しました。
とりあえず今日のところは症状の安定化をはかれましたが、近日中に手術の予定です。がんばれ、シマジロウ!
5月 ×日(晴 )
新型インフルエンザ騒動 ③
今回のインフルエンザウイルス、もともとは豚由来のウイルスですが、じつは昔から人と豚の間を行ったり来たりしているウイルスはいろいろと知られていて、たとえば日本脳炎のウイルスはその代表格。人・豚両方に感染します。
だから今でも日本脳炎の流行予測に豚の血液検査が利用されており、養豚場などで飼育される豚の日本脳炎ウイルスの抗体価が高い年は人にもその流行が予想され、厚生省から流行警報が発せられる仕組みになっています。
最近世間は新型インフルエンザの話題で持ちきりですが、今後豚からさらなるエマージングウイルスが発生しない事を願っています。
5月 ×日(晴 )
新型インフルエンザ騒動 ②
新型インフルエンザの流行を意識したわけではありませんが、当院の換気システムにはウイルスや花粉を効果的に吸着する医院向けの特殊なフイルターが装着してあります。病院建設の際、明らかに予算オーバーになるけど、単純な消毒だけでは院内感染を防ぎきれないと考えて、あえてこのシステムを導入しました。この医院併用住宅に住むようになってからというもの、以来一度も風邪をひかなくなりました。今では美容外科を中心に、この方式がかなり普及しているとか。
ところで先日建設担当の方と電話でお話しする機会がありましたが、「先見の明がありますね。」とあたかも今回の流行を予見したかのように感心されましたが、これはたまたま、偶然です。
今後病院だけでなく、一般の住宅にもこれと似たシステムが導入されると新型インフルエンザに限らず花粉症など広く病気の予防につながるのではないでしょうか。
5月 ×日(晴 )
新型インフルエンザ騒動 ①
新型インフルエンザ対策でマスクの啓蒙がなされるのはいいことですが、ついにマスクの在庫が尽きたようで、当院でも新たな購入が難しくなりました。職業柄マスクは必須なので、いまある在庫で当面なんとか凌がねばなりません。最悪の場合、使い捨てマスクを再度ガス滅菌して再生していこうかと考えています。まさか今回のインフルエンザ騒動でこんな影響を受けるとは予想だにしませんでした。
5月 ×日(曇 )
キャバリアを飼っているせいか、TVにキャバリアが出ていると、ついつられて最後まで見てしまう。今日も12チャンネルの番組にロダン宇治原君が愛犬のキャバリア(=華ちゃん)と一緒に出演していました。
そういえば、ひと月くらい前には、あの元総理の孫であるDAIGOがキャバリアのリリーちゃんと出ていたっけ。もしかしてキャバリアは今ひそかなブームを迎えているのかも!?
5月 ×日(晴 )
ゴールデンウィークもおわり、今日ようやく一息つけました。今年のGWも例年と変わらず、とても忙しかった・・・。事故あり、怪我あり、病気あり、なんでもありの10日間。しかも最後にやってきたのはワンコの熱中症。クルマの中にワンコを置いて買い物に熱中していたみたい。来院したときにはすでに時遅く、すでに硬直が始まっていました。こんな最期は本当にかわいそう・・・。
日陰に駐車しても、5月の車内はサウナ状態になります。車内に愛犬を放置しないで!
4月 ×日(晴 )
みなさん、進行性網膜萎縮(P.R.A)という病気をご存知ですか?これは徐々に進行してワンコの視力を蝕む怖い病気。今までは一部のM.ダックスフントとラブラドールに好発するといわれていましたが、最近立て続けに他の犬種でこの疾患を見ました。
かつて北海道の某盲導犬育成センターの仔犬に多発して以降、、盲導犬育成機関では盲導犬を選抜する際の必須検査項目に眼底の検査を入れています。当初訓練を終えた盲導犬がいよいよ実社会にデビューする段階になって視力障害を生じ、大きな社会問題になった事がありました。
なんとなく視力が衰えたようだ、物によくぶつかる、散歩を嫌がる、といった傾向を認める場合は、病院での検査をおすすめします。P.R.A.は原因不明の疾患だけに予後は予断を許しませんが、中には治療に反応するワンコもいますので、早期診断は意義があります。
なお、確定診断には眼底検査が必要です。必ずしも全ての動物病院に眼底を観察する倒像鏡や眼底カメラがあるわけではありませんから、事前に病院にお確かめの上受診されると良いと思います。
4月 ×日(晴 )
先週に引き続き、本日も東大の動物医療センター(外科)に紹介状を書きました。私が東大病院を紹介するケースで多いのは、悪性腫瘍、頭頚部の神経疾患、そして自己免疫性疾患。
ここ数年で飼い主さんの病気に対する意識がかなりかわってきた気がします。以前よりも、「たとえ治らない病気であっても、出来るだけの事はしてあげたい」、「その病気をよく知ったうえで、飼い主として何ができるのか自分なりに考えたい」、といった治療に際し明確な意思を持つ人が確実に増えています。
こうなると飼い主さんのご要望に応えるべく、大学に紹介する症例も必然的に増えて、そのせいで東大も診療が超過密化、ここ2年くらいは、懇意の先生がいるとはいえ、なかなか予約fが取りにくくなりました。とはいえ私が自信をもって紹介できる2次診療機関は現状ではここだけなので、今の診療体制からあと週1日だけでも診療日を増やしてもらえるとありがたいと思う今日この頃です。