12月 ×日(曇 )          

久しぶりに都内で開業している同級生から電話がかかってきた。お世話になったK教授(私がご指導いただいたころは助教授)がいよいよ来年3月をもって定年を迎えられるので、かつての研究室仲間でパーっと景気よくお祝いのパーティーしたいな~、という相談。いいですね~。私お酒は弱いけど、お祝い事は大好き!(*^_^*)

K先生には在学中いろいろお世話になりました。K先生は病理学者にして統計学者というスゴ腕の教授。しかも顔が漫画「こち亀(=こちら亀有公園前派出所だっけ)」の主人公、警察官の両津カン吉(あの麻生総理も大ファンとか!)にそっくりなのである。当然左右の眉毛はつながって太い一本線である。もちろん葛飾区出身。真面目な講義の最中に時折マニアックなギャグを言って皆を笑わせつつも、学生の集中力を削がないので、学生に大人気の先生でした。定年とはいえ、引退は本当に残念です。(>_<) そういえば、かつて研究室で夜食のカップラーメンを食べていると、こんなことがありました・・・。 K先生:「おい、菊池、160円貸してくれ!」 私:「え!、いったいどうされたんですか!?」 K 先生:「財布がない。」 私:「え!、また紛失されたんですか?」 K先生:「う~ん、落としたかもしれんが、ウチに忘れたかも。」 私:「私も一緒に探しましょうか?」 K先生:「いや、たいして入ってなかった気がするからいい。ただ上溝のウチに帰るまでのバス代ないから貸してくれ、160円!」 私:「かしこまりました。160億円ですね。(笑)」 いまでは懐かしい思い出です。

12月 ×日(曇 )          

今日はマルちゃんの飼い主さんが、1年ぶりにわざわざ安曇野よりいらして下さいました。実はマルちゃん、1年前に亡くなってしまいましたが、ここにきてようやくご家族全員精神的に立ち直れて”気持ちの整理がつきました”、とのこと。
マルちゃんは賢くてとってもかわいいヨーキーだったので私にも一層の思い入れがあり、ひとしきり時間の経つのも忘れてマルちゃん談義にハナが咲きました。

かわいいワンコやニャンコの死によって飼い主さんと疎遠になることもありますが、その一方で、ともに病に立ち向かうという共闘意識の高まりから、その後もお付き合いが続く事が最近はとても多いです。それだけワンコやニャンコが単にペットというよりは、むしろ理屈抜きで人生に潤いをもたらすかけがえのない家族のとして強く認識されている証なのでしょう。良い事ですね。

12月 ×日(晴 )          

今月から病院前の道路工事が始まり、来院される方々にはご迷惑をおかけしております。
これは軽井沢町による大賀通りの改修工事であり、軽井沢町をより魅力的にするためのモデル事業として行なわれるもの。工期終了は来年3月です。ご不便かけますがもうしばらくお待ちください。

12月 15日(晴 )          

今日は先日入籍したOさんのお祝い昼食会。スタッフ全員(6名)参加です。会場はエクシブ軽井沢の中華「翠陽」。お店の側が気を利かせてくれて、個室を用意してくれました。

 前菜

普段仕事以外の話はしないので、久しぶりに身近な話で盛り上がり、とっても楽しかった~~~。(*^_^*)

昨年のMさん、今回のOさんと結婚するスタッフが2年続きましたが、
みんな当院の労働環境を気に入ってくれて、結婚後も仕事を続けてくれるので、私も助かります。
みんな、本当にありがとう!

ところで時々飼い主さんから、「先生の病院のスタッフはみんな美人ぞろいですが、採用に際しては顔を重視するんですか?」という冗談とも本気とも判断しかねる質問を受けることがあります。たしかにみんな可愛い子たちです。でも採用はもちろん能力・性格・経験重視であって、顔が全て、なんて絶対ありません。^_^;

12月 ×日(雪 )          

臨床経験を積むということは不思議なもので、20年近く同じ仕事を繰り返していると、ある種のカン(=第6感)が働くようになります。なかなかコトバに出して表現するのは難しいので、私の感じるままに幾つか体験談をお話し致します。

①顔色から病状がわかる

人間なら当たり前の話ですが、犬や猫の顔色ってあるの・・・そう思われるのは当然ですが、私に言わせれば明らかにあります。そもそもヒトの顔も動物(犬猫)の顔もその大半は内臓筋由来の表情筋ですから、顔を見ることは内臓を観察することと同義です。大学時代内科の教授がよく言われていた「内科診断の基本は視診・触診・聴診」の意味がいまごろ良~くわかるのだ。

②術前に正確な麻酔投与量がわかる

麻酔は危険を伴う医療行為で、ヒトのような麻酔専門医が存在しない獣医師の世界では、安全確実な麻酔手技は臨床医に絶対不可欠なもの。術前に体重や年齢、全身の状態、既往歴を考慮しつつ計算から決める事が習いになっていますが、動物に不要な興奮や不安を与えることなく円滑に導入することは意外と難しい。大学時代は計算値だけでは足りなくて興奮させてしまったり、過量から心室性不整脈を誘発したりと苦労しました。以来安全確実な麻酔導入をライフワークにしてきたせいか、今日も仕事は絶好調!最近は動物も麻酔導入時はかなり気持ちいいんじゃないか、と思ったりします。(^_^)v

かつて外科のW教授(いまでは麻布大学の名誉教授かな)に動物実習のあと麻酔のコツをしつこく聞いたことがありました(生意気な学生でゴメンナサイ!)。そのときの先生の言われたひと言はきわめて衝撃的!
「Dog per face!」・・・体重や検査データや既往歴に留意するのは当たり前、そのときのワンコの顔色をみて最終的な投与量を判断しなさい・・・。
この薀蓄が私もわかるようになりました。今度若尾先生に学会でお会いしたら昔話に花を咲かせたい!

③ノラネコの性別がわかる
長く行動を観察していればわかるのは当然ともいえますが、これは瞬間的な話。ポイントは歩き方にあります。♂猫には♂猫の歩き方があり、♀猫には♀猫特有の歩き方があります。
かつて代診していた頃、都内で開業している大先輩にこの話をはじめて聞いた時、”なんだかいいかげんなことを言っているなあ~、”と思いながら、適当に受け流していました。

当時は、「つまるところ動物はコトバを使えないわけで、どんなちいさな変化も獣医師側は見逃すな!」という戒めの言葉と勝手に解釈していましたが、最近は公園などの地域猫を一目見ただけで、まず性別は正確に判断出来ます。
文字どおり、一瞥で猫の性別がわかる、経験とはそんなものです。

12月 ×日(霧)          

3歳半の♂のフレンチブル(龍之介君)がやってきた。いつもお父さんの晩酌に付き合ってつまみを貰うのが日課になっているという幸せ者ですが、なんと昨夜はお父さんの目を盗んで焼き鳥を串ごと飲み込んだらしい。らしい・・・、というのは、お父さんが席を立ったその隙に一本だけ拝借したようで、席に戻ると焼き鳥串が一本足りない。他のおつまみの位置関係は保たれたまま。ただ、お父さんも酔っ払っていてはっきり思い出せない。自分で食べた気もする。

一方、奥さんは串の数が明らかに少ないといわれるので、龍之介君元気だけど、念のためレントゲン単純撮影を実施。
すると胃内にそれらしい陰影が認められました。まずいな、こりゃ。今度は改めて二重造影撮影で確認すると、明らかに串状異物が描出されました。しかもその長さと腹腔内の位置からみて、明らかに消化管穿孔間違いなし。

飼い主さんに異物の写った写真を見てもらって確認したところ昨夜の焼き鳥の串に違いないとのこと。さっそく手術で摘出しましたが、それにしても12cmの串を焼き鳥のついたままよく飲み込めたものです。この荒業には多少のことにはびくともしないスタッフ一同も驚嘆!私は子供の頃観た「剣を飲むマジック」を思い出しました。

PS
龍之介君は先ごろ無事退院しました。ちなみに焼き鳥のお肉は鴨肉で龍之介君の大好物だったようです。いまもお父さんの晩酌のお供を律儀に勤めているようです。お幸せに!(^・^)

12月 ×日(晴)          

きょうはウエルシュコーギーと紀州犬のミックス犬、ハッピー君(♂、2歳半、18kg)がやってきた。咬み癖が治らず飼い主さんのみならず近隣の子供まで咬むに到って、訓練士の意見も参考に犬歯の切断を希望されました。したがって本日来院の目的は、麻酔下で4本の犬歯切断を含む歯牙の研磨と歯冠形成です。

名前とは裏腹にかなり攻撃的で院内でも吠えまくり、お預かりする際にも「先生、くれぐれも気をつけて下さい、先日私も咬まれて外科で縫ってもらったところです」、と飼い主さんがえらく気にされる状態。

猛犬の扱いにはかなり慣れているつもりでしたが、今回ばかりはかなり大変だろう・・・、ちょっと心配になりました。スタッフと今後の処置について綿密に打ち合わせをしていたら、なんとそのうちのスタッフのひとりにいきなり懐いてスリスリしているではありませんか。それでも飼い主さんの言う「前科」があるだけに細心の注意をしつつ甘えさせながら鎮静剤の投与や静脈の確保を続け、なんとか麻酔導入完了!

ここまで来ればあとは問題ありません。全て予定通り、施術は完璧でした。それにしてもなぜこの”問題犬”がスタッフのひとりにいきなり甘えて慣れ親しんだのか、不思議です。

12月 6日(晴)          

今日は神経病の学術講習会に行きました。神経病といっても範囲が広いのですが、今日のテーマはずばり「てんかん発作の全て・てんかんを極める」です。講師はそのスジの世界的権威デニス・オブライアン(米国ミズーリ州立大学教授)。数年前にもこの先生の講演を聴いた事がありましたが、この数年でだいぶてんかんの仕組みがわかってきたようですが、それにはMRIのような先進的な医療技術がそのけん引役を為したようです。

その一方で、治療薬そのものには大きな変化はありません。ただ、何種類かの新薬は頑固な特発性(=原因不明)てんかん発作にかなり有望といわれ、やがて国内でも発売の見通しとか。

そうはいってもこの新薬、コストがネックとなってはたして普及するか疑問視する向きもかなり多いみたい。ちなみに米国では1カ月の薬代が約30万円という価格になる見通し。さすがにこのところの金融危機もあってか、高価な新薬の普及にはデニス・オブライアン先生といえども極めて懐疑的でした。

ところで最近学会に行くとシラバス巻末に優良情報サイトが掲載されています。これは私たち獣医師が飼い主さんからインターネット上の情報サイトの相談をされた際に「信用できる医療情報サイトはここですよ!」と示せるように用意されたもの。

米国では、近年飼い主さんが誤った情報をインターネットで得て、大学病院等とトラブルになることが多く、その対策として優良医療情報の提供サイトを有識者(各科の権威)が選定、飼い主さん側に示すということが広がりつつあるという。
逆に考えれば、いかに多くの誤った情報がネット上に氾濫しているか、ということにもなります。

日本でもこのようなことがないように、米国人講師は親切心をこめて学会時には紹介してくれるというワケ。今のところ英語サイトしかありませんが、必要な方には当院でもいつでも提供します。くれぐれも誤った情報に振り回されないで下さい。

11月 ×日(晴)          

トラちゃんの入院 その②

トラちゃんはスタッフ総出の看護のかいあって、なんとか回復してくれました。しばらく絶飲絶食の状態であったため、ほかの入院患者の食事を横目で見ながらおとなしく点滴の毎日。そして流動食の期間を経て、本日メデたく退院なのだ。

それにしても、トラちゃんのケースは2つの意味で驚かされました。ひとつは今さらながら感じる抗菌剤の威力。手術中徹底的に腹腔内洗浄を行なったとはいえ、雑菌だらけのお腹を完全にクリーンな状態に戻す事に成功したという事実。いうなれば、これは抗菌剤の圧勝。
そしてもうひとつは、腹膜炎を患っていても、とりあえず元気に振舞っているワンコがいる事実。衝撃的でした。少なくとも私なら七転八倒で気絶しているかもしれません。

11月 ×日(晴)          

トラちゃんの入院 その①

秋の行楽シーズンを向かえ、ワンコとともに紅葉を楽しむ方も増えています。そんななか、観光中に突然の食欲不振を訴えたワンコ、バーニーズのトラちゃん(29kg、♂、11ケ月月齢)がやってきた。

若い女の人が大好きみたいで、来院した際には病院のスタッフに喜んで飛びついて腰を振っていました。(*^_^*)
ホントに病気なのかな、と思いつつも触診では明らかな腹部圧痛を認めたので、念のためレントゲン撮影をしてみたら、お腹に極少量の液体が溜まっています!いけませんね、これは。念には念を入れて、エコーをかけてみても、やっぱり極少量の液体が溜まっています。やばいなこりゃ、腹膜炎です。年齢的にガン性腹膜炎は考えにくいので細菌性腹膜炎と仮診断を下し、緊急手術に入りました。

レーザーメスで止血しつつ慎重にお腹を開けてみたら、マスクをしているのにもかかわらず、ものすごい腐敗臭!スタッフ全員思わず瞬間的に仰け反りました。やっぱり典型的な細菌性腹膜炎でした。お腹の中を精査したところ、なんと幽門から十二指腸に移行するまさにその部位に直径2mm大の穴が開いていました。ここから腸管内容物と胆汁が漏れて腹膜炎を生じたようです。この穴を見つけてほっとしました。この部位を適切に処置すれば救命の可能性がグンと高まる!

ところでなぜ、こんなところに穴が開いたんだろう?患部に潰瘍は無いし異物も認めない、ただ、以前から異物摂取の悪癖はあったようで、術後飼い主さんとお話した際は、こちらの説明にいちいち納得されていたので、きっと思うところがあったのでしょう。