10月 ×日(曇)          

今日はミニチュアダックスのヒメちゃん(7歳)がやってきた。飼い主さんいわく、「数日間下痢をわずらっていたが元気もあり食欲もあったので様子をみていたら、なんと今朝赤い塊がお尻からぶら下がっている」とのこと。かなり焦っている感じです。

さっそくお尻を確認すると、15cmにわたり直腸が脱出しています。あたかも大きなウインナーをぶら下げている状態。これはいけませんね、直腸脱です。しぶりを伴う頑固な下痢をに対して適切な治療をしなかったために、これに継発したと思われます。

一般に、直腸脱は脱出した粘膜の状態がよければ肛門からの直接的な整復を試みますが、今回すでに腸管は引きずられたことにより広範な出血と壊死を生じ、手術の適用しかありません。

飼い主さんの承諾を得て、急遽手術になりました。ダメージを受けて壊死した組織を除き、止血処置を施しながら同時に新鮮な粘膜同士を腸管に沿って360度緻密に縫合していく・・・私は細かな手作業が好きなのでこの手の手術には絶対の自信がありますが、やっぱりワンコはかわいそう。
みなさん、下痢や便秘といえども侮る事なかれ、長引けば時には直腸脱になることがありますから。

6月 ×日(曇)          

軽井沢もだいぶ暖かくなって、野鳥の事故が増えてきました。例年6月下旬~8月半ばまでがトラブル多発期間です。そのほとんどはガラス窓に勢いよく激突するケース。不思議に思って個人的にいろいろ調べてみたところ、どうやらカラスに追われてあせって逃げる途中、誤って窓ガラスに衝突するみたい。

ケガの程度は様々ですが、受傷後すみやかに救護されたものはその後の経過もわりとよく、逆にかなり時間を経て保護さらたものは衰弱が激しく救命が困難です。傷ついた野鳥を保護された場合はすみやかに病院を受診されることをおすすめします。

6月 ×日(雨)          

今日はフレンチ・ブルのゴロウ君(♂、6才がやってきた。1カ月前くらいから左眼が赤く充血しており、ちかくのお医者さんで角膜炎との診断を得て点眼を続けるものの、最近は角膜全体が白く濁って3日前からは痛みも出てきて心配とのこと。やんちゃなゴロウ君、今まで眼を散々いじられているためか検査を嫌がってしまい、なかなか検眼させてくれません。そこで飼い主さんの承諾を得て、点眼麻酔に加えて鎮静処置を実施、拡大鏡でつぶさに角膜表面を観察すると、なんと角膜上皮(約0・05~0.1mm)が所々千切れてルーズに剥がれかかっており、その下の角膜実質(約0・4mm)にほとんど付着していません。

いけませんね、典型的な”ボクサー潰瘍”です。これはボクサーやフレンチブルなどのブルドック系犬種に多く発生するといわれるいまだ原因不明の疾患、別名”難治性無痛性潰瘍”のこと。

改めて準備しなおした上で、セオリー通りの外科治療を施しましたが、言うまでもなく今後も通院加療が必要です。また両眼に発生することも多いので、これまで以上に右目にも注意をはらわねばなりません。がんばれ、ゴロウ君!

ところでこの疾患は”難治性無痛性潰瘍”と呼ばれているにもかかわらず、痛みを認めるケースも少なくありません。ただ、症状からみてもっと強い痛みがあっても不思議はないので、なぜ痛みが軽いのかははっきりわかっていません。ただ、中年以降に発症する事が多いので、中年以降は痛みに鈍感になるとか、慢性化すると痛みが急性期よりも軽減すると言われています。

6月 ×日(曇)          

朝から続けて2頭、異物摂取で腹膜炎の一歩手前のわんこがやってきた。最初のワンコは球状のプラスチック樹脂性異物が十二指腸下部にて閉塞を起こし、次のワンコはサランラップがヒモ上に撚れて糸状異物になって空腸がアコーデオンのヒダ状に変位。やばいな、こりゃ。状況が状況だけに2頭とも早々に手術になりましたが、この手の手術がいちばんキツイ。

避妊や去勢のように全身状態が良好でなおかつ完全に手術手技が定まっていれば安全性も高く安心できますが、一方今回のようなケースでは、事前のレントゲン検査などで一応お腹の中の状態は分かっていても、予想外の事態(=穿孔による腹膜炎や捻転・重積の併発)が発生している事があります。それでも獣医師である以上、「予想外の事態」にも「想定の範囲内」として対応せねばならず、麻酔の導入から手術終了に至るまで一秒たりとも気が抜けません。特に消化管の縫合はわずかな漏れも許されませんから、仕事の後は精魂尽き果てるといった感じになります。(>_<) ところでそれなりの注意と時間を要する消化管の縫合を一瞬(わずか1秒!)にしておこなう医療器具があります。一般に”ステプラー”と呼ばれるもので要は”医師向け消化管専用ホチキス”です。モノがモノだけに本体もタマも非常に高額。もちろんヒト用でツールマニアの私も2種類持っていますが、なにせ大きい、大きすぎなんです。大型犬にはなんとか使用できても、中型犬・小型犬にはまず大きすぎて使用不可能。 だれか小型犬にも使えるようなモノを開発してくれないかなア・・・。そうなれば消化器外科が少しはラクになるんだけど・・・。

6月 ×日(晴)          

獣医眼科学講義の2日目。
講義の内容もさることながら、質疑応答の時間が大変面白い。いわゆる「裏ワザ・裏話」がわんさか出てくるのである。

眼科に限らず現在診療で用いられる医薬品はそのほとんどが基本的に定められたガイドラインにしたがって適正使用されます。いわゆるエビデンス(=医学的根拠)に基づく使用です。
その一方で、適用外使用されるものもわずか存在しており、本来の使用方法を医師の裁量で変更して処方されます。

このような場合はもちろん飼い主さんの十分な了解なり合意を得た上での投薬になりますが、内容が内容だけに学術論文やテキストに載ることはまずありません。ところがこの手の処方が非常に効果をあげたとなると、学会や講習会の中で誰言うともなく「内輪の話・ここだけの話」として話題になるのです。

この「適用外使用」、ちょっとイリーガルな響きからとにかくネガティブにとらえられがちですが、薬剤の化学構造や性質を考えると医学的に理にかなっているものが多く、けっしてバクチではありません。個人的には「示唆に富む内容も多く無視できない」と感じています。

ところでこの適用外の使用に際しては、やはりというか当然と考えるべきか民族性が顕著に現れるようで、その頻度から欧州>米国>日本の順になるという。日本人獣医師はヨーロッパ各国の獣医師に比べるとかなり慎重とか。治療の難しい疾患に対し積極的にトライしてなんとか治してあげたいと思う一方で、今の世の中リスクの高い医療行為には手を出しにくい・・・そんな複雑な本音が透けて見えた気がしました。

6月 ×日(曇)          

獣医眼科学の世界的権威、Drウィルキー(オハイオ州立大学)の講演を聴きに行ってきました。2日間連続の講演なので、会場のすぐ隣の京王プラザホテルに宿泊。期待通りの、それも非常に濃い内容だけに講演1日目が終った段階で、すでに結構疲れました。でも明日は明日でさらに濃密な講義になるでしょうから、できるだけ体力を回復せねば・・・。

というわけで、夕食は知る人ぞ知る中目黒のジンギスカン料理の名店「鉄玄 滋養堂」へGO!仕事に拘束されて、あまり病院から遠くに離れることができないので、外でジンギスカンを食べるなんて、ホント何年ぶりだろうか、15年ぶり?・・・感激!!!。

4月 ×日(晴)          

今日は日本小動物がんセンター病院のセンター長である小林先生の講演を聴講するため、新宿まで行ってきました。小林先生といえばオンコロジー(獣医腫瘍学)の米国専門医、先生いわく近年の統計では犬猫ともに死因のトップはガンであり、特に犬の場合その半数近く(=47%)をガン関連死が占めるという。ちなみに猫では32%に達するとか。
いずれにせよ、ガン治療は私たちのような臨床家にとっては今後ますます避けて通ることのできない深刻な問題。

ところで私たちが汎用する抗がん剤の一種に、サイクロフォスファミドというお薬があります。臨床の現場で絶大な信頼を得ているお薬ですが、このお薬の前駆物質メクロレミタン(現在発売中止)開発には歴史があり、元来化学兵器として有名なマスタードガスから化学的に誘導されたもの(薬理学的にはナイトロジェンマスタードという一群に分類されます)。‘毒をもって毒を制する‘という化学療法剤の作用機序を見事なまでに体現しています。
毒と薬は紙一重なんですね。

3月 ×日(晴)          

きょうは三毛ネコのニャンタロウ(♂、2歳、去勢済)が爪の除去手術にやってきた。いたずらが過ぎてカーテンや高級家具をメタメタにしてしまい、当初は猫爪カバー(=樹脂製のネイルカバー)で対応していたものの、ここにきて同居猫2匹にも爪を立ててケガをさせてしまったので、いよいよ飼い主さんも決断を迫られたようです。日本ではなじみの薄い猫の爪除去手術はマイナーサージェリーのなかでもさらにマイナーであり、年間でも数えるほどしかありません。個体差はありますがレーザーを用いて丁寧に止血をしつつ慎重に切除すると痛みも少なく、手術翌日からほとんど普通の生活が可能です。
聞くところによると、米国ではこの爪の除去手術は典型的なメジャーサージェリーであり、なんと避妊・去勢・爪切除の3部作だけで成り立つ病院もあるとか。驚きです。

2月 ×日(曇)          

K先生講演の”内分泌疾患に関する最新の知見”を求めて、今日は信濃町まで行ってきました。今回講師のK先生は大学に在籍する獣医師ではなく、現在奈良県内で開業する現役の臨床家。とはいえ、そのスジでは圧倒的に有名な医師です。大学卒業以来今日までさまざまな機会にさまざまな先生の講義を受講させていただきましたが、臨床の現場で対応されている先生の話には専門分野にかかわらず本当に得るものがあると実感。それだけに講義のあとの質疑応答も白熱した議論の応報で、雪の中わざわざ軽井沢から新宿まで出かけていくだけの価値ある内容でした。

学会帰りの道すがら、久しぶりに「エチオピア高田馬場店」でスパイスのきいた野菜カレーを食べました。カレーの専門店だけにさすがおいしい!本当においしい!カレー大好きな私ですが、個人的な好みでいえば、

1位=デリー(東京ミッドナイト)ひたすら美味しい!
2位=ジャイプール(上田市)ナンが極うま、感動!
3位=エチオピア、スパイスが効いて最高!

といったところでしょうか。2位と3位は味の面ではほぼ同格ですが、エチオピアは高田馬場店も御茶ノ水店も駐車場がないのでやや評価落ち。ちなみにデリーとジャイプールでは3~4人のインド人コックが腕を振るっています。病院の仕事に縛られてなかなか遠出は難しいけど、せめてジャイプールくらいにはまた行きたいなあ~。

2月 ×日(晴)          

究極の獣医師養成?

報道によれば、農水省は今後獣医師のさらなる質の向上を目指して、2009年の獣医師国家試験から従来の学術試験とあわせて、倫理面を問う問題50問を追加設定するとか。
獣医師としての倫理観を、それもマークシートの試験で問うとは、大丈夫かニッポン?妙な世の中ですナア・・・。