2月  ×日(曇 )          

怖い話・・・その②

宮崎県の鳥インフルエンザ拡大が止まりません。口蹄疫に続き、こんな大きな災難が降りかかって、本当に気の毒だと思います。

先日隣の小諸市でも簡易検査陽性の野鳥が見つかって大騒ぎでしたが、大学での検査で陰性が確認されて本当によかった。

もっとも、渡り鳥がウイルスを運んでいる可能性が高い上に、長野県は渡り鳥も含めて野鳥の宝庫ですから、今後も油断は禁物。長いスパンで防疫に努めるべきでしょう。

ところで、「鳥インフルエンザはヒトには感染することはありません」、と広くアナウンスされていますが、そもそもヒトのインフルエンザウイルスは水鳥由来のインフルエンザが変異してヒトに感染力を持つようになったという説もあります。これはあくまで個人的な意見ですが、鳥インフルエンザを家畜の伝染病と限定して考えるのはいかがなものかと思う。

危機を煽る気はさらさらありませんが、宮崎県内に限らず、一般のヒトが野鳥の死骸に安易に触れたり、部外者が養鶏場に出入りすることを控えるのは当然でしょう。

私が学生の頃はじつに幸せな時代(?)で、このような家畜伝染病予防法で定めるところの疾患が発生したことは一度もありませんでしたが、それでもW先生の内科実習でウイルス性白血病(=届出伝染病に指定されていたと思う)の牛の触診をした際は、よく手洗いするように指導されたし、触診そのものも体表リンパの触診など必要最小限に控えるよう、きつく言われたものです。

後で知ったことですが、当時欧米では職業リスクとして獣医師の白血病発症率が一般に比べて有意に高く、動物由来のウイルスの関与が強く疑われていたようです。このような背景もあって、W先生は注意を促したのだと思う。

2月  ×日(曇 )          

怖い話・・・その①

読売新聞でこんな国際ニュースを見つけました。

「中国中央テレビなどによると、衛生当局が最近摘発した江蘇省宜興市の抗がん剤の製薬工場は、廃棄物や生活ゴミなどが放置された工場地帯一角の地下室にあった。薬の成分を正確に計測できない機器や実験用の粗末な機材を使い、抗がん剤を製造していたという。

 押収された抗がん剤はソラフェニブ9770個、ゲフィチニブ20瓶などで、いずれも「ペルー産」と偽装。ゲフィチニブは市場価格で1瓶1万6000元(約20万円)するところを、2000元(約2万5000円)前後でネットなどで販売していた。」

最近何かと世間を騒がせている中国、薬の世界でも怖い、というか本当に危ないですね。

私たちが普段使用する薬剤はヒトと動物の違いはなく、その使用は一部の例外を除き国内製品に限られます。ただし、国内で入手困難でかつ欧米で明らかな有効性が認められているものに関しては、米国経由で入ってくる可能性がないとはいえません。
中国製に限らず、安い医薬品(というか、安すぎる医薬品)にはホント気をつけようと思う。

もっとも米国在住のお金持ち中国人は薬も食品も自国の中国製品を避けて、いずれも高いけど国際的に高い評価を得ている日本製医薬品や安全な日本製食品を買い求めているとか。

1月  ×日(曇 )          

美味しいクスリ

ここ2~3年、動物用医薬品の世界では、「おいしい薬」が流行っています。

心不全や関節炎の治療薬から始まって、ノミ・マダニ等外部寄生虫の予防駆虫薬(今年の春、フロントラインに対抗して発売開始)にいたるまで、その内容は実にさまざまですが、基本的に長期投与が前提となる薬剤に適用される傾向があるみたい。

いやがる薬を飲ませるのは飼い主さんにとってもストレスになりますが、喜んで飲んでくれたら治療効果も上がるうえに飼い主さんからも喜ばれるので、これは処方する獣医師にとってもオイシイ話だと思います。

これらの美味しい薬、基本的にフレーバー錠と称してわんこやにゃんこの好む味や匂い(お肉味とかバナナ風味など)を加えてあるだけすが、中でも極めつけは蜂蜜風味の鎮痛剤(液体)。

これは猫専用の鎮痛剤ですが、桁違いに嗜好性がいいんです。あまりにも嗜好性がよくて、これをほしいがために、お座りして口を開けるにゃんこもいるという。

ためしに私も一なめしたところ、驚きました!蜂蜜風味どころか限りなく本物の蜂蜜に近い味!そうか、猫も蜂蜜好きなんだ!

一瞬にして永谷園の松茸のお吸い物を思い出しました。松茸を原材料にまったく含まないにもかかわらず、あのお吸い物は本物以上に松茸の香りがする!
おそるべし化学のチカラ。

1月  ×日(晴 )          

英国硬貨で支払い?

病院のレジの硬貨を整理していたら、なんと2ペニー硬貨(英国)が混じっていました。10円硬貨よりもやや大きいものの、色が10円硬貨と似ているから、誰か10円と間違えて支払っていったのでしょう。

まあ、軽井沢は仕事等で頻繁に海外へ渡航する人も外人さんも多くいらっしゃるから悪意はないと思うけど、今日は7円くらいのマイナスです。

いっそ100円硬貨と1ポンド硬貨を取り違えてくれたら30円くらいのプラス効果だったのに・・・。(ToT)

2011年 1月  ×日(晴 )          

がんより怖い血栓症

今年の冬は異常に寒い。例年に比べ雪は結構少ないのに、連日最高気温が零度以下。いわゆる「真冬日」です。こう寒くなると、がぜん増えてくるのが猫の膀胱炎と動脈血栓栓塞症。

膀胱炎は命までもっていくことはないのでこちらとしても怖くありませんが、問題は動脈血栓栓塞症。これって致死率けっこう高いんです。

動脈血栓栓塞症とはじつにいかめしい名前ですが、要は一時期脚光を浴びた人のエコノミークラス症候群の動物バージョンと考えると理解しやすいと思います。

ただ、人とは血栓の詰まる場所が大きく異なり、猫では腹部大動脈から腎動脈や仙腸動脈などの分岐部に血栓が詰まりやすく、発症するとみんな後ろ足が麻痺して急に歩けなくなります。

詰まる場所がほぼ決まっている(=前述の大動脈分岐部)とはじつに不思議な話ですが、一説によるとここの血管の分岐角度と内径が血栓を引っ掛けやすい角度・構造になっているとか。

もっとも、血栓が発生・成長する過程は100年も前にウイルヒョウという病理学者によって解明されています。

それでも猫の血栓症は医学的に不明な点が非常に多く、あまたの成書をひもといても統一した見解がなく、じつは標準的な治療方法もいまだ確立されていません。

したがいまして、臨床の現場ではヒトでの治療法を猫にあてはめて行うといういわば手探りの状態。血栓溶解剤など高額な医薬品を使って手厚い看護を施しても致死率の高いこの疾患は、動物はもちろん獣医師にとってもかなりのストレス。今後の研究・解明が急がれる疾患だと思う。

ちなみに「がんより怖い血栓症」とは、近年人医の世界で血栓症の恐ろしさを表現するさいによく使われるコトバだそうです。

12月  ×日(晴 )          

今年もよく働きました・・・

今年も残すところあとわずかとなりました。毎年年末になると感じることですが、本当にあっという間の一年でした。
我ながら、今年もよく働いたな~、と感心することしきりです。

今年はいろいろな意味で獣医師が注目された一年でした。
薬物がらみの不祥事から小栗旬扮する獣医のドラマに至るまで、ホントいろいろありましたが、先日スタッフと忘年会で飲んでいたら隣のテーブルのオヤジ集団から、「うちの子は将来は資格のある仕事に就けたい、できれば獣医師か弁護士にしたいなあ~!」という雄たけびが聞こえてきた。

不況下でも資格さえあれば就職に困らないという意味でしょうか?

人生って不思議ですね。私は小学生の頃はスピードスケートの選手になりたくて練習に明け暮れ、中学生の頃は小説家を夢みて、高校になって映画俳優を目指していたのに、いつのまにか気がついたら獣医師になっていました。

私自身は過去においてはあまり資格にこだわったことはないけど、動物もこの仕事も大好きなので獣医は天職、今更ながら本当によかったと思う。

12月  ×日(曇 )          

「腹を割って話をする」、という表現がありますが、私は職業柄ワンコやニャンコやウサギちゃんの腹を割る(=手術による開腹)ことは、ほとんど生活の一部になっています。

腹を割ると、当然ことながら、いろいろなものが直接観察できて納得できると同時に、また気になる点も見つけてしまうのですが、ここ最近2~3年で一番気になることは、異常なまでに内臓脂肪の多い動物が確実に増えたこと。

動物の場合、現段階で明確なメタボリックシンドロームの診断基準があるわけではないので科学的な根拠に乏しいものの、個人的には「これってどうなの? 寿命を縮めちゃうんじゃないかな~」と思うほどの状態も結構あります。

もちろん適度な脂肪は必要ですが、過剰な脂肪は動物の体に悪い以上に、手術をする側(=獣医師)泣かせの存在でもあります。

なぜなら内臓脂肪過多の動物では、手術に際し患部の切除をする前にまず周囲の脂肪を除く、あるいは目的の臓器に達する前に脂肪を処理する、といった余分な作業が必要になりますし、時には血管をけっさつするための糸を持った獣医師の手が脂で滑るといった思わぬリスクも生じますから。

最近は私自身、適度な運動を心がけてダイエットに励んでいます。これは健康に留意する、というよりは、手術のたびに過剰なまでの脂肪を見せられているせいかもしれません。

12月  ×日(晴 )          

旧軽井沢地区で野良猫が増えて、大変なことになっています(*_*)。
例年この時期は増えるんですが、今年は異常に増えて、その数なんと20数匹。そのうち子猫~6ヵ月未満の若い猫が15頭ほど。

軽井沢は、他の地域に比べたら動物の管理に対し意識の高い人が圧倒的に多いのですが、その反面夏の間だけ餌付けして、秋にはそのまま都内に戻ってしまう人もいて、これが野良猫の大量発生の原因になっているのではないか、そう推測しています。

このまま放置したら恐ろしいくらい増えてしまいそうな勢いなので、鈴猫会のみなさんや軽井沢ペット福祉協会の有志の方々の協力を得て、3者でなんとか18頭まで保護し、当病院で全18頭に血液検査・ワクチン接種・避妊去勢手術を実施しました。

事情が事情だけに、私としても持ち出し覚悟のボランティアで活動していますが、毎年手術しても不幸な子猫が一向に減らないのがとても残念です。

その一方で、この活動に理解を示す方も増えてきて、子猫の里親探しが以前より円滑に運ぶようになりました。

軽井沢が人にとってはもちろん、動物たちにとっても住みやすい町であってほしいと願っています。

11月  ×日(曇 )          

TVドラマ「獣医ドリトル」の影響で獣医師という職業が注目されるようになったせいか、老若男女を問わず、いろんな質問を受けるようになりました。そこでよく受ける質問をあげて、ここにまとめて回答いたします。

Q1.ハムスターの手術って本当にあるの?

A1.はい、あります。さすがに子宮蓄膿症での開腹は通常はありませんが、体表にできた腫瘍を取り除くような外科手術は日常茶飯事。けっして珍しい光景ではありません。
ちなみに哺乳動物でもっとも腫瘍化しにくい組織はヒトの細胞であり、一方最も腫瘍化(→ガン化)しやすい組織はマウスの細胞といわれています。

Q2.ドラマの中で、「日本の獣医療は欧米に比べて10年遅れている!」といわれていますが、本当にそんなに遅れているのでしょうか?

A2.確かに制度としては欧米のほうが専門医制度も確立されており、獣医師に対する社会の受け皿もしっかりしています。ただし、社会的な地位と医療技術の秀逸さとは本来別物。

確かに世界的な権威となると欧米に分があるけど、平均的な獣医療は欧米と比べてもさほど遜色はないと思う。

Q3.小栗旬扮するドリトル(=鳥取先生)のモデルとなった獣医師は実在しますか?

A3.残念ながら実在しませんね。居たらおもしろいけど。ただ、あそこまでハチャメチャでなくても、獣医界にはかなり個性的な人間が多いのは事実。とくに公務員獣医師ならいざしらず、臨床家は自分の腕一本で生き抜いているという自覚の人が結構います。よく言えば自主独立、悪く言えば一匹狼ってとこですかね。

もっとも、成宮君扮するところの花菱先生には明らかにモデルが存在します。獣医師ならだれでも知っている彼、以前はマスコミにもよく登場してフェラーリをぶん回していました。

彼がこの世界でがぜん注目されたのは、もう10年くらい前の文芸春秋の特集「21世紀に活躍が期待される日本人ベスト100人」の一人に選ばれた時。当時政財界から学会の著名人に混じって彼が選ばれた記事を目にした時は私も非常に驚いた記憶があります。

もっとも、その100人の中には、今となってはなんだかよくわからない鳩山元総理をはじめ、?っと思える人も山ほどいたけど、う~~ん、どうなってんだろう???

11月  ×日(曇 )          

飼い主さんに、さまざまな病気への理解を深めてもらえるように、貸し出し用DVDを用意しました。タイトルは以下の通りです。

1.肥満と減量について
2.猫の下部尿路疾患について
3.犬と猫の慢性腎不全について
4.愛犬の心臓病について
5.老齢犬の関節疾患(AO)について
6.猫に多い便秘症と犬に多い下痢症

いずれもわかり易いアニメ形式(平均20~30min)です。
視聴を希望される方には無償で貸し出しますので、スタッフまでお知らせください。