3月 ×日(雪)
福島の原子力発電所事故以来、福島県から長野県内に避難する人がとても増えているみたいです。
実際、ここ軽井沢でも福島県内から避難された方のワンコを診る機会が結構増えました。
昨日も当院を受診された飼い主さんで、急な避難でドックフードの持ち合わせがなくて困っている方に病院のストックフードを無償で提供したところ、大変喜ばれました (^_^)。わずかでもお役に立てて嬉しい。
ところで放射線に関しましては、私たち獣医師もレントゲン機器を扱うので、医師や放射線技師同様、職業上「被爆管理」が義務付けられています。
通常行われている放射線(X線、γ線)の監視方法は、クイクセルバッジ(フイルムバッジ)といわれるもので、仕事中は胸ポケットに付けたり、またエックス線透視をする先生は、指にも装着しています(指輪タイプ)。
これ、私も胸に着用しています。
ポケット線量計のようなリアルタイムでの線量計測はできませんが、過去1ヵ月の総被爆線量を事後報告で知ることができます。
医療従事者に関しては、一応1ヵ月あたり0.1mSv(=100μSv)以下が基準ですが、これを単純に30日で割ると3.3μSv/day、1時間あたりでは0.138μSv/hourとなります。
さて来月4月の線量報告書(=3月の測定結果)は、はたしてどんな結果になるのか、少なからず原発の影響が測定結果に反映されるのか、原発から250km離れている長野県に住んでいながらも、大いに気になるところです。
3月 12日(晴)
このたびの大規模地震により
被害を受けられた皆様に
心よりお見舞い申し上げるとともに、
皆様の安全と一日も早い復旧を
お祈り申し上げます。
私どもはやや強い揺れこそ感じましたが、
実害はほとんどありませんでした。
ただ、過去に浅間山の噴火等も経験しており、
今回の災害も、とても他人事とは思えません。
これ以上の災害に見舞われることがないように
祈るばかりです。
なお、被災されました方につきましては、今春の
狂犬病予防注射接種料金は無料となりました。
詳しくは当院までお問い合わせください。
3月 ×日(雪 )
医師を選ぶも寿命のうち・・・?
今日はマルチーズのピーチちゃん(14才・♀)がやってきた。
飼い主さんいわく、「最近いよいよおしっこの出方が悪く、とうとう昨夜からは好きなドックフードも食べなくなってしまった」とのこと。
困りましたね、これは。言い知れぬ不安がアタマをよぎりました。
早速診察するも、ピーチちゃん、診察台の上でも見るからに体調が悪そうな様子。
聞けば、自宅近所(=とはいっても、隣町になりますが)のA動物病院を以前受診してエコー検査を受けた際、「膀胱結石による膀胱炎」を指摘されて、今日まで治療してきたものの、一向に症状が改善せず、さすがに心配になって病院を変えて当院に来たらしい。
飼い主さん自身が「膀胱結石による膀胱炎」の診断を疑っている様子はありませんが、再確認のため当院でもエコー検査を実施したところ、なんと結石ではなく(=結石はまったく見当たらない!)、明らかな腫瘍性病変が確認されました。
膀胱頚に浸潤したその様子から、まず移行上皮ガンは間違いないと思われますが(=現在病理の結果待ち)、エコーで診るかぎり、移行上皮ガンの末期的ともいえる深刻な状況に唖然としました。
本当に参りましたね・・・、これは。
A動物病院を信じて通院してていたのに、エコー検査まで受けながら、ガンを結石と見誤られ今や手遅れ、治療の極めて困難な状態。
もちろん同業者について批判的なことは言いたくありませんが、この状況は正確に言わざるを得ないだろうと思い、正直に現状を説明しました。
すべてを話した後の、飼い主さんの悲しそうな顔が瞼に焼き付いて、今も忘れられない・・・。
もし私が逆の立場だったら、間違いなく号泣したと思う。(T_T)
ああ、こうなる前に診てあげたかった。
こうなった以上、私にできることはなんでもしてあげようと思う。
3月 ×日(雪 )
IT時代の聴診器
久しぶりに聴診器を購入しました。
今まで状況や病態に応じて使い分けていた聴診器3本のうち1本の調子が悪くなってしまい、買い換えた次第です。
聴診器は言うまでもなく「音を聴く道具」なので本来慎重に扱われるべき医療器具ですが、時には暴れる動物も相手にしますから、やっぱりダイヤフラム(=聴診する面)が傷むことも多いので、獣医師にとっては消耗品の感覚です。
最近の聴診器はIT技術の進歩で、実際の音を18倍まで増幅したり、意図的にノイズを消したり、短時間ながら一部を録音・再生したり、あるいはパソコンに赤外線通信で情報を飛ばして専用ソフトで音質分析できるものがあります(上記画像)。
電池を内蔵しているので一般的な聴診器と比べやや重く、チューブが短いものの、雑音等聞き逃しが少ない点・音質を変えられる点・リアルタイムで心拍数を確認できる点を重視して、今回大枚をはたいて購入しました。
テレビ放送だけじゃなく、聴診の世界もいまやアナログからデジタルの時代に突入しているのだ。
2月 ×日(雪 )
今年は例年より雪が少ないな~、と思っていたらここにきて2日連日の大雪。もっとも、都内含め全国的に雪に見舞われているというから、今回降って当然かもしれない。
除雪車があるので除雪作業はさほど気にならないけど、それでも結構なチカラ仕事には違いないので、手術の予定がある日は私は除雪作業を控えています。
自分のことをけっして神経質な性格ではないと思っていますが、朝から除雪機を動かしたり重い荷物を運んだりすると、手術時必ず指先の感覚に違和感を覚えるタチなので、手術前には雪かきはしません。
でもよくできたもので、こういうときは妻やスタッフがそれなりに雪かきをしてくれるのでとても助かります。
その一方で、手術が予定よりも早く終了したような時(=スムースに終わる手術はまず成功間違いなし!)は、ルンルン気分で除雪作業に取り組んでいます。
なぜなら除雪作業は私の場合ダイエット効果抜群なんです。作業の前後で体重1kg減なんて当たり前!単純な比較は難しいけど、おそらくロードバイクと同等、もしくはそれ以上のダイエット効果があるんじゃないか、と思っています。
2月 ×日(曇 )
怖い話・・・その②
宮崎県の鳥インフルエンザ拡大が止まりません。口蹄疫に続き、こんな大きな災難が降りかかって、本当に気の毒だと思います。
先日隣の小諸市でも簡易検査陽性の野鳥が見つかって大騒ぎでしたが、大学での検査で陰性が確認されて本当によかった。
もっとも、渡り鳥がウイルスを運んでいる可能性が高い上に、長野県は渡り鳥も含めて野鳥の宝庫ですから、今後も油断は禁物。長いスパンで防疫に努めるべきでしょう。
ところで、「鳥インフルエンザはヒトには感染することはありません」、と広くアナウンスされていますが、そもそもヒトのインフルエンザウイルスは水鳥由来のインフルエンザが変異してヒトに感染力を持つようになったという説もあります。これはあくまで個人的な意見ですが、鳥インフルエンザを家畜の伝染病と限定して考えるのはいかがなものかと思う。
危機を煽る気はさらさらありませんが、宮崎県内に限らず、一般のヒトが野鳥の死骸に安易に触れたり、部外者が養鶏場に出入りすることを控えるのは当然でしょう。
私が学生の頃はじつに幸せな時代(?)で、このような家畜伝染病予防法で定めるところの疾患が発生したことは一度もありませんでしたが、それでもW先生の内科実習でウイルス性白血病(=届出伝染病に指定されていたと思う)の牛の触診をした際は、よく手洗いするように指導されたし、触診そのものも体表リンパの触診など必要最小限に控えるよう、きつく言われたものです。
後で知ったことですが、当時欧米では職業リスクとして獣医師の白血病発症率が一般に比べて有意に高く、動物由来のウイルスの関与が強く疑われていたようです。このような背景もあって、W先生は注意を促したのだと思う。
2月 ×日(曇 )
怖い話・・・その①
読売新聞でこんな国際ニュースを見つけました。
「中国中央テレビなどによると、衛生当局が最近摘発した江蘇省宜興市の抗がん剤の製薬工場は、廃棄物や生活ゴミなどが放置された工場地帯一角の地下室にあった。薬の成分を正確に計測できない機器や実験用の粗末な機材を使い、抗がん剤を製造していたという。
押収された抗がん剤はソラフェニブ9770個、ゲフィチニブ20瓶などで、いずれも「ペルー産」と偽装。ゲフィチニブは市場価格で1瓶1万6000元(約20万円)するところを、2000元(約2万5000円)前後でネットなどで販売していた。」
最近何かと世間を騒がせている中国、薬の世界でも怖い、というか本当に危ないですね。
私たちが普段使用する薬剤はヒトと動物の違いはなく、その使用は一部の例外を除き国内製品に限られます。ただし、国内で入手困難でかつ欧米で明らかな有効性が認められているものに関しては、米国経由で入ってくる可能性がないとはいえません。
中国製に限らず、安い医薬品(というか、安すぎる医薬品)にはホント気をつけようと思う。
もっとも米国在住のお金持ち中国人は薬も食品も自国の中国製品を避けて、いずれも高いけど国際的に高い評価を得ている日本製医薬品や安全な日本製食品を買い求めているとか。
1月 ×日(曇 )
美味しいクスリ
ここ2~3年、動物用医薬品の世界では、「おいしい薬」が流行っています。
心不全や関節炎の治療薬から始まって、ノミ・マダニ等外部寄生虫の予防駆虫薬(今年の春、フロントラインに対抗して発売開始)にいたるまで、その内容は実にさまざまですが、基本的に長期投与が前提となる薬剤に適用される傾向があるみたい。
いやがる薬を飲ませるのは飼い主さんにとってもストレスになりますが、喜んで飲んでくれたら治療効果も上がるうえに飼い主さんからも喜ばれるので、これは処方する獣医師にとってもオイシイ話だと思います。
これらの美味しい薬、基本的にフレーバー錠と称してわんこやにゃんこの好む味や匂い(お肉味とかバナナ風味など)を加えてあるだけすが、中でも極めつけは蜂蜜風味の鎮痛剤(液体)。
これは猫専用の鎮痛剤ですが、桁違いに嗜好性がいいんです。あまりにも嗜好性がよくて、これをほしいがために、お座りして口を開けるにゃんこもいるという。
ためしに私も一なめしたところ、驚きました!蜂蜜風味どころか限りなく本物の蜂蜜に近い味!そうか、猫も蜂蜜好きなんだ!
一瞬にして永谷園の松茸のお吸い物を思い出しました。松茸を原材料にまったく含まないにもかかわらず、あのお吸い物は本物以上に松茸の香りがする!
おそるべし化学のチカラ。
1月 ×日(晴 )
英国硬貨で支払い?
病院のレジの硬貨を整理していたら、なんと2ペニー硬貨(英国)が混じっていました。10円硬貨よりもやや大きいものの、色が10円硬貨と似ているから、誰か10円と間違えて支払っていったのでしょう。
まあ、軽井沢は仕事等で頻繁に海外へ渡航する人も外人さんも多くいらっしゃるから悪意はないと思うけど、今日は7円くらいのマイナスです。
いっそ100円硬貨と1ポンド硬貨を取り違えてくれたら30円くらいのプラス効果だったのに・・・。(ToT)
2011年 1月 ×日(晴 )
がんより怖い血栓症
今年の冬は異常に寒い。例年に比べ雪は結構少ないのに、連日最高気温が零度以下。いわゆる「真冬日」です。こう寒くなると、がぜん増えてくるのが猫の膀胱炎と動脈血栓栓塞症。
膀胱炎は命までもっていくことはないのでこちらとしても怖くありませんが、問題は動脈血栓栓塞症。これって致死率けっこう高いんです。
動脈血栓栓塞症とはじつにいかめしい名前ですが、要は一時期脚光を浴びた人のエコノミークラス症候群の動物バージョンと考えると理解しやすいと思います。
ただ、人とは血栓の詰まる場所が大きく異なり、猫では腹部大動脈から腎動脈や仙腸動脈などの分岐部に血栓が詰まりやすく、発症するとみんな後ろ足が麻痺して急に歩けなくなります。
詰まる場所がほぼ決まっている(=前述の大動脈分岐部)とはじつに不思議な話ですが、一説によるとここの血管の分岐角度と内径が血栓を引っ掛けやすい角度・構造になっているとか。
もっとも、血栓が発生・成長する過程は100年も前にウイルヒョウという病理学者によって解明されています。
それでも猫の血栓症は医学的に不明な点が非常に多く、あまたの成書をひもといても統一した見解がなく、じつは標準的な治療方法もいまだ確立されていません。
したがいまして、臨床の現場ではヒトでの治療法を猫にあてはめて行うといういわば手探りの状態。血栓溶解剤など高額な医薬品を使って手厚い看護を施しても致死率の高いこの疾患は、動物はもちろん獣医師にとってもかなりのストレス。今後の研究・解明が急がれる疾患だと思う。
ちなみに「がんより怖い血栓症」とは、近年人医の世界で血栓症の恐ろしさを表現するさいによく使われるコトバだそうです。