6月  ×日(晴 )          

前回鎮静剤だけで歯科処置を行なうことも多いと書いたところ、これに関する複数の問い合わせをいただいたので、この場で新たに補足説明致します。

動物(主に犬や猫やウサギやハムスター)を対象に、じっくりと口腔内を観察したり、残存する乳歯を抜歯したり、歯石を除いたりする場合、患者である動物の安全性を確保しつつ、術者の作業を迅速かつ確実に行なう為には、「患者の不動化」は必須です。

その際、不動化を得るためにどのような処置を選択するのかは獣医師個人の経験に大きく左右されますが、大きく分けて2つの方法に集約されます。

1) 全身麻酔による完全な無意識下でおこなう。
2) 鎮静催眠剤や鎮痛剤の併用等により、意識を消失することなく、患者の動きを最小限に抑えて行なう。

この2番目の方法が一般にセデーションと呼ばれるもので、全身麻酔に比べると循環器や呼吸器に対する負担が少なく、全身麻酔のような、厳密かつ完全な麻酔管理を必要としません。なによりある程度の意識が保たれ高齢動物にも安全に使える、麻酔事故のリスクが限りなくゼロに近い、といったところが最大の特徴です。

したがって一般論として、入院を必要としない日帰りで行なわれるキズの縫合や、組織の生検、前述のスケーリング等に適しています。

一方、口腔内に発生した悪性黒色腫の切除、ガマ腫の切開、下顎骨折の整復手術など、より侵襲性の高い手術や長時間を要する複雑な手術では、セデーションのみでは事実上作業が不可能であり、全身麻酔が必要です。

かなりおおざっぱな言い方になってしまいましたが、いずれの方法も一長一短あり、臨床の現場では個々の状況に応じて使い分けています。

当院では、歯石の除去やウサギの過長歯のトリミングなどは基本的に入院は必要としない(=日帰り可能)処置とみなし、その際には特別な事情のない限り、鎮静剤の投与のみ、もしくはこれに鎮痛剤を併用することで、高い安全性を確保しています。

6月  ×日(晴 )          

医療機器の寿命って・・・①

とうとう超音波スケーラー(=歯石を効果的に取り除く機械)が壊れてしまいました。(>_<)

開業以来まる6年間、酷使し続けたのでこわれても仕方ないと納得する一方で、愛着のある使い慣れた機器を手放すのは、たとえるなら愛車を手放す時と似て、とっても残念・・・。

もっとも、当院では、あえて全身麻酔を使わず、セデーション(鎮静催眠剤投与のみ、もしくはこれに鎮痛剤の併用)でスケーリング(=歯のお掃除)をすることが多いうえに、歯科診療にも力を注いでいるので、この機器の使用頻度が一般の動物病院に比べてかなり高いことも事実。明らかに寿命がきた~~~、といえます。

こうなった以上、早急に代替機を購入せねば!

業者に依頼したら、即日デモ機として最高の機材を用意してくれました。高級機種だけあって、従来のスケーリング機能に加えて、ゴルツエチップという無血抜歯用チップも備わって、全体的にかなり使えそう 。\(~o~)/

超音波スケーラーとしては結構いい値段だけど、うん、気に入った!(^_^)v

いい仕事をするためには、いい道具が欠かせません。よし、これを購入しよう!ビックカメラで大型TVを購入するときと同様、相変わらず即断即決のワタシでした。

6月  ×日(曇 )          

獣医学部は人種のるつぼ? ②

獣医学部の学生はユニークな家庭の出身者が多く、前出の政治家などは序の口で、皇族に連なる方や有名実業家一族出身も珍しくありません。
その中でも極めつけはなんといっても霊媒師でしょう。その方の親御さんが名の知られた霊媒師でした。

さすがにそのスジの超有名人だけにここで名前までは挙げられませんが(とんねるずの石橋がよくモノマネしていました)、かつて獣医師国家試験のヤマをこの方にお願いして当てていただこうか、などと友人たちと話し合ったことを昨日のことように思い出しました。

6月  ×日(曇 )          

獣医学部は人種のるつぼ? ①

午前中の仕事を終えて、遅めの昼食を取っていたら、菅直人氏が総理に選出されたと伝えていました。

菅氏といえば、私たち獣医師の間では、ご子息が獣医師であることは広く知られています(臨床にたずさわっているかどうかは知りませんが)。

おそらく口蹄疫が発生した際には、畜産・食肉業界にどれほどの打撃を与えるか、ご子息を通してその危険性を当初から十分把握していたのではないでしょうか。

週明けには組閣にのぞまれるようですが、もう赤松大臣のような家畜伝染病に関して危機意識を欠いた人物だけは農水大臣には任命して欲しくない、と多くの獣医師は感じているはず。

ところで獣医学部はなぜか以前から政治家の子息が多く在籍し、私がいた頃も父兄会名簿をパラパラめくると父兄の職業欄に「大臣」とか、「市長」といった記載が目立ちました。

さすがに職業欄に「総理大臣」との表記を見つけたときは悪い冗談かと思いましたが、とんでもない、父兄欄に記載された名前は当時金丸氏に担がれた総理大臣・海●俊○氏でした。

ところで私が卒業する頃にはもう、父兄会名簿は発行されなくなりました。個人情報保護の観点から廃止に至ったとのこと。ある意味とっても残念なのだ!

6月  ×日(晴 )          

今日はアメリカンコッカーのビーナスちゃん(♀・10才)がやってきた。飼い主さんいわく、「最近咳がひどく、夜もちょっと息苦しそう」とのこと。

念のため心エコーで検査したところ、典型的な拡張型心筋症(DCM)であることが判明!これでは夜どころか昼間も息苦しいでしょう。

この拡張型心筋症は従来ボクサーとドーベルマン・ビンシャーに特異的と言われてきましたが、じつはアメリカン・コッカーにも多発する病気で、現在原因は不明とされていますが、個人的には遺伝的な疾患と疑っています。

ただ、アメリカン・コッカーのDCMに限って、タウリンやカルニチンを強化した食事で卓効を示すことも多く、この点で、ボクサーやドーベルマンピンシャーのDCMとは発病の仕組みが異なるとも言われています。

もっとも、DCMは犬種に偏りがあるもののどの犬でも発症の可能性はありますから、高齢犬で頑固な咳が止まらない、一般的な心不全の治療で体調が改善しない、など重い症状が認められた場合には、心エコーなどで徹底的に心臓を診てもらうことをおすすめします。

5月  ×日(晴 )          

食道の病気 その②

以前はほとんど注目されることが無かった食道の病気。最近は内視鏡などの発達で診断率が上がっていますが、バイオプシーが難しい、エコー診断が使えない、多くの場合X線頼み、等の理由から依然として扱いにくい疾患です。

基本的にワンコに多い食道の病気といえば、巨大食道症と逆流性食道炎。逆流性食道炎はワンコに限らず、ここ5年くらいでヒトの臨床でも激増している注目の疾患。

たしか、日経メディカルのリサーチによれば、全国の内科医に対するアンケート「過去3年以内でもっとも多く診断した消化器疾患はなんですか?」に対し、逆流性食道炎は過敏性腸疾患と並んでぶっちぎりの1位・2位を記録していたと思う。

もっとも、ワンコの場合逆流性食道炎の原因はヒトのように生活習慣や肥満に起因することはなく、じつは医原性(=医療が原因をつくる)が多いみたい。

具体的には、手術後の嘔吐による胃液の逆流が指摘されています。一時期、避妊手術に際し、腹腔内の臓器を頭側に移動させて術野を広く確保する理由から、麻酔時に頭をかなり低く保つ体位を推奨していた某国立大学の教授がおりましたが、いまはどうしているのかな~?これって、いまでは危険因子として認識されています。

ただし、この方法はあまり普及していません。やっぱり自分が手術を受ける立場で考えても、他に方法がないのならばともかく、術者の都合だけで頭に血がのぼるような不自然な姿勢は好ましくない、・・・そう大多数の獣医師は感じていたのだと思う。やっぱり獣医師は動物に優しい人種なのだ。

5月  ×日(晴 )          

食道の病気 その①

今日はMダックスのユキオちゃん(7才、♂)がやってきた。

りん告によれば、食欲もあって飲水も普通なのに嘔吐が酷く痩せる一方とのこと。吐き方が異常なので大変心配になり、今日まで近くの病院で胃腸炎を疑って検査・治療してきましたが、まったく改善せず、ほとんどさじを投げられたみたい

参ったな、こりゃ。もうかなり衰弱している様子から、原因だけでも突き止めなければ、どう考えてもやばいだろう。

改めて検査入院してもらって徹底的に調べてみたら、なんとユキオちゃんは食道疾患(=巨大食道症)であることが判明!前の病院では胃腸に注目するあまり、食道疾患に思い至らなかったのでしょう。思い込みってコワイですね。臨床にたずさわるかぎり、他人事じゃありません。

ところでこの疾患、なぜか最近ダックスに多いんです。
もっとも、米国ではMダックスの消化器疾患の25%は巨大食道症とも言われかなり一般的な疾患とか。

一方日本国内ではここまで多くはないと思われますが、最近は食道疾患に注目が集まっていますから、今後診断される数も増えることでしょう。

5月  ×日(曇 )          

宮崎県の口蹄疫が、今日も猛威をふるっています。

マスコミではなぜかほとんど報道されていませんが、コトがコトだけに獣医師間ではさまざまな情報が飛び交い、私のところもメール等を通じて内情が伝わってきます。いまも奔走している産業動物担当獣医師は宮崎県内の酪農の全滅をも覚悟しているとか。そこまで事態は深刻です。

しかし、ここまで口蹄疫が大規模に流行するとは・・・。
大学時代、口蹄疫を含む家畜法定伝染病26疾患は国家試験で常に問われるため、病因・疫学から診断に至るまでしつこいくらい詳細に覚えさせられた記憶があります。(詳細を知りたい方は下記アドレス参照のこと)

http://www.niah.affrc.go.jp/disease/fact/03.html

ところで、大学では上記法定伝染病の治療について学ぶことはありません。なぜなら摘発・淘汰(=全頭殺処分)が鉄則であって、治療は必要ないのです。それだけこれらの病気がひとたび流行すると、産業界に甚大な被害が生じるということです。

この口蹄疫、じつは最初に確定診断が得られたのは、今年3月のことでした。
初期の段階でいきなり口蹄疫を疑って検体を採取した獣医師は、かなり優秀なドクターだと聴く。

ところがこれ以降今日に至るまで政府の対応は後手後手に回り、有効な手立てを講じることも無く、初期の封じ込めに失敗。

ところで、農水省の責任は極めて重大なのに、自ら陣頭指揮を執るべき赤松農水大臣はなぜか優雅に外遊とか。困ったものです。

4月  ×日(曇 )          

今日はウサギのモモちゃん(♀・4ケ月齢)がやってきた。

やんちゃなモモちゃんは、飼い主さんが洗濯物を干すために
二階のベランダに行く際には、必ず後に付いていくのが日課です。

今日も飼い主さんを追いかけて、
いつもどおり階段をかけ上がったところ
運悪く足を滑らせ転落し、左の後ろ足を痛めたらしい。

でも来院時すでに症状(疼痛)は緩和しており、
大事に至らなかったのは不幸中の幸いでした。

ところで意外に思われるかもしれませんが、
ウサギは種類によっては結構人になれてくれます。

特に幼い頃から可愛がっていると、
まるで鳥類の刷り込み現象のような懐き方をして、
家中どこに行くのにも付いて来るようになりますよ。

4月  ×日(曇 )          

ヒルズの新薬発売一周年記念の学術講習会に行ってきました。場所は品川駅近くの東京コンファレンスセンター。

講演の前半はT大薬理学教室H准教授のお話。分子レベル、細胞レベルでのかなりマニアックな内容で、かつての薬理の授業を思い出しました。(-_-;)

必ずしも臨床向きの内容ではないけれど、しっかり理解していると知識が深まり、結果として病態を正確に把握できるといったところでしょうか。暗室でのスライド上映のため、うとうとしている人もチラホラ見かけました。前日、遅くまで仕事していたのかな~?

さて、講義の後半はT大内科のO准教授のお話。
やっぱり参加者は臨床家主体なので、俄然みんなの目が輝いていました。聴講者は500~600人前後はいたと思うけど、驚くほどみんな真剣に聞き入っていました。無理もありません、たしかに講演内容が充実していてなおかつ面白かった。

企業の主宰する講演はとにかく薬の宣伝になりがちだけど、O准教授のように、必ずしも薬の紹介にとらわれず、その日一番話したい話題を、それも最新の知識をまじえてみっちり話すというのは素晴らしいと思う。

やっぱりO先生の講演は面白い!