8月 ×日(晴)          

きょうはトイプードルのクリステルちゃん(♀、6ヵ月齢)の骨折の整復手術をしました。じつはクリステルちゃん、飼い主さんの自転車のカゴから落ちて右前肢をポッキリと折ってしまいました。

体重2.2kgの超小型犬ですから、前肢(トウ骨・尺骨)のような細い骨は、強い外力に対してはひとたまりもありません。この手の骨折は要注意です。
なぜならば、中型犬や大型犬の骨折とちがい、超小型犬の骨折は最初にキッチリ治さないと、その後癒合不全をおこしたり、最悪肢が壊死してしまうことがあるのです。

クリステルちゃんの場合、骨はケンタッキーフライドチキンよりもひとまわり小さく細い骨でしたが、幸い幅3mm長さ28mmのマイクロプレートと直径1.5mmのミニスクリューがなんとか適用出来たので、予定通りプレートによる内固定法で正確に治しました。

今回骨がかなり細くて一旦始めたらやりなおしのきかない手術だけに、整復作業中は緊張で疲れを全く感じていなかったのですが、手術終了と同時に全身からどっと汗が噴き出してきた。

ところで今回プレートによる内固定法が使えなかったら、その時は思い切ってIlizarov型創外固定器を使おうと覚悟していました。これは究極の骨折治療器具です(下画像)。

通常の創外固定器と比べても格段に精巧な設計で、骨の微妙な角度を修正したり、骨延長(成長障害で短くなったままの骨を正常なレベルまで伸ばす手術)のために適度なテンションをかけたり出来る超スグレモノ!

獣医整形外科の専門医も絶賛する有効なツールですが、じつはこれを採用している動物病院は現時点でかなりの少数派。その理由としては、他の方法に比べて少々お値段が張ること、また獣医師側にマニアックなテクニックが求められることが予想されます。

つくづく整形外科は奥が深いと思う。

8月 ×日(晴)          

珍しく入院患者がカラになったので、夜9時をまわっていましたが思い切って上田の有名ラーメン店「F B I 」行きました。ここは知る人ぞ知る佐久の「文蔵」の2号店。前から行きたい行きたいと思いつつも仕事に追われて、まだ一度も行ってなかったのです。

お店に着いて私が注文したのはおすすめの「こがしラーメン」。佐久の「文蔵」とは異なる趣向のラーメンでしたがとっても美味しかった~。\(~o~)/

夜遅い時間にもかかわらず文蔵の社長さんもいて、ラーメン談義に花が咲き面白かった~。わざわざ軽井沢から来てくれたことにもえらく感謝してくれて、個人的に「特製こぶたメシ」もサービスで頂きました。ここは盛がいいのでお腹いっぱいになります。お腹が苦しいくらいなのだ。

まさかこぶたメシまでサービスでいただけるとは思っていなかっただけに、量が多くてこりゃ食べ切れないな・・・、と思っていたのに、美味しいからペロリとたいらげてしまった。そんな自分が怖い。

ああ、また明日からダイエットをはじめないと。(-_-;)

8月 ×日(晴)          

今日はチワワのコタロウ君がやってきた。呼吸器に持病をもっている超肥満犬なので、日中の暑いさなかの移動がストレスとなって呼吸不全から熱が体内にこもり、熱中症を発症!(>_<) 来院時の体温は43.5度、すでに意識がありません。もうやばいな、こりゃ。一瞬不安がアタマをよぎるが、ここまできたらベストを尽くすのみ。 脱水の補正をしつつ呼吸機能をサポートしてICU(高濃度酸素室)で集中管理したところ、1時間後にようやく意識が戻り、8時間後には自力で立てるようになり、奇跡的に回復しました。コタロウ君は本当にラッキーです。 ところでコタロウ君、軽井沢には飼い主さんと避暑目的でやってきたのに、来る途中の道が大渋滞して、その結果今回のような重篤な事態に陥ったらしい。飼い主さんいわく「都内は暑すぎるから、コタロウのためを思って避暑に連れて来てあげたのに・・・。」現実は皮肉なものですね。(@_@;)

8月 ×日(晴)          

軽井沢は自然が豊かだけあって、今年も蜂に刺されてくる子が異様に多い。というより、8月は1日に1回必ず診ている感じです。ほとんどは刺された局所の痛みのみで全身に症状を現すことはありませんが、中には顔から頸にかけて大きく腫れて気道を圧迫したり、あるいは気管の浮腫から呼吸困難を生じ、ひどい場合にはショック状態に陥って担ぎ込まれることもあります。

これは個人的な経験ですが、蜂に刺されて重篤な状態に至るワンコはほとんどが薬物アレルギーを持っているケースです。過去に抗生剤投与等でアレルギー反応を見たワンコは要注意ですね。

もっとも最近は林の中でなくとも、アウトレットで買い物中に蜂に刺されるケースも増えていますから、避けようがない気もします。

そういえば、今日も蜂に刺されたワンコ(ミニチュアダックス)がやってきた。飼い主さんはTVなどでおなじみの有名な女優さんでした。聞けば林の中を散歩中に蜂の大群に遭遇してしまったとか。お大事に~^_^;

蜂といえば、以前読んだこの本、結構面白かったです。今回の日誌内容とはあまり(というよりまったく)関係ありませんけど・・・。

7月 ×日(雨)          

急性胃拡張・捻転症候群 その④ 番外編
深夜の急患でフラットコーティッドレトリバー(♂)がやってきた。またもや急性胃捻転症候群(GDV)。前回グレートデンのケースからわずか6日でまたGDV。さすがに1週間に2件のGDVを診ることになるとは思わなかった。こんなことって、初めて。

今回も前回同様、「徹夜+手術」のフルコース。もちろん手術もうまくいって元気な姿で退院できたからいいけど、さすがに週に2回の徹夜は体力的にきつい。

GDVを患ったワンコの飼い主さんはこの病気の死亡率の高さを知っているだけに、無事に退院できるととっても喜びます。

7月 ×日(霧)          

今日は以前当院で保護していた柴系ミックス犬のタロウ君がやってきた。普段は都内の超高級マンションで里親さんと仲良く暮らしていますが、久しぶりに飼い主さんと軽井沢の別荘にやってきたので、わざわざ挨拶に立ち寄ってくれたみたい。ありがとう、タロウ君!!!\(~o~)/

タロウ君、うちで保護していた時は「オスカ-君」でしたが、里親になってくださった飼い主さんが「タロウ君」に改めて命名しました。

なぜかというと、飼い主さん自身が大手外資系企業に勤める日本駐在員であり、大の日本びいきの外国籍の方。それだけに、日本犬の血を引くワンコにはぜひとも日本を意識した名前をつけたかったようです。もっとも、時の総理大臣麻生太郎氏も強く意識したようですが。

ところで軽井沢には外国からいらしている方も結構多く、それだけに強く日本を意識した名前を愛犬や愛猫につけています。

たとえば、グルメでかわいい三毛猫に「おいしい」ちゃん。
(名前に形容詞ってすごいな!)
精悍で知的な顔つきの大型犬に「大将」ちゃん。
(たしかに日本的といえば日本的!)
黒い瞳に深遠な東洋哲学を感じさせる中型犬に「空海」ちゃん。
(空海をご存知とはおそれいります!)

外国人の飼い主さんがいらした際には、可愛い愛犬なり愛猫をどんな名前で呼んでいるのか、私のひそかな楽しみになりつつあります。(*^_^*)

7月 ×日(晴)          

当世開業事情 ②
最近特に増えているのが、テナント形態の開業。不況下では病院併用住宅に比べて初期投資額の少ないテナント開業が人気みたい。開業支援コンサルタントも「仕事場と住居が分離されているぶんプライベートな生活が保障されます!」みたいな勧め方をすると聞いたことがあるけど、これって本当にメリットだろうか?

そもそも動物病院には病状の重い軽いは別にして、つねに入院動物がいます。入院動物がいる以上、病状の悪化・急変や事故防止に備えて、最低ひとりは当直が必要になります。この場合病院と住居が一体であれば、院長が夜も巡回もしくは回診を繰り返せば、まず動物の安全を確保できます。

ところがテナントで夜間無人となるとこうはいかないし、愛犬なり愛猫なりを入院させた飼い主さんの不安も尽きないと思う。もちろんテナントであっても複数の獣医師が当番制でコトにあたっていればなんら問題はないでしょうが、現在国内の動物病院の70%は獣医師ひとりの病院ですし、また獣医師ひとりのテナント開業も多いと聞きます。

善意に解釈すれば、重症患者のいる時はテナントといえども泊り込みで24時間対応しているんだろうということになりますが、はたして実態は・・・深刻なトラブルが生じやすいという話です(これ以上詳しくは書けないけど・・・)。

というわけで、あくまで私見ですが、動物病院は仕事場と住居が一体であるからこそ、24時間の手厚い看護が可能ですし、あるいは夜中の急患受け入れにも対応できるのだと思う。一部のコンサルタントの強調する「職・住分離のメリット」は、臨床獣医の立場から見たらむしろデメリットと言えなくもない。

たとえ病院でなくペットホテルであっても、夜間無人になる施設には、私は愛犬を預けることは出来ないと感じています。

7月 ×日(雨)          

当世開業事情 ①

100年に1度の不況というけれど、獣医療関係者によれば、昨年から今年にかけては全国的に動物病院の開業ラッシュで、なんと昨年あたりから‘動物病院開業コンサルタント’が法人規模から個人営業に至るまでものすごい数に達しているという。

そういえば最近学会誌なんかにもコンサルタントの広告や開業支援セミナーの紹介記事が目立つようになりました。うちに出入りしている医療機器の納入業者も休日返上で北海道から九州まで飛び回り、まさしく目が回るほどの忙しさとか。

ただし一口にコンサルタントといっても現状は玉石混交で、中には学生のレポートに毛の生えたような、到底プロとは思えない仕事でお茶を濁したり、最悪お金を巻き上げられるケースもあるという。こうなると詐欺ですね。獣医師は臨床一筋で世間にうとい人も多いだろうから、だまされやすいのかな。

ところで私はコンサルタントとやらを利用した事はありません。というより、私が開業した時はまだ今のようなコンサルタントが存在しませんでした。でもたとえ今のように多数存在したとしても、私は利用しなかったと思う。理由は簡単、この世界のことはどんなコンサルタントよりも自分の方が100倍詳しいという自負がありますから。

7月 ×日(雨)          

急性胃拡張・捻転症候群 その③
今朝になってようやく落ち着きました。もうモニタリングは不要。確実に一命を取り留めました。巨大なワンコゆえ、スタッフ総出の看護でここ2日は掃除も行き届かなくて、また院内にはレーザーや電気メス使用時に発生する独特のニオイが立ち込めてしまい、参りました。(>_<) これが例えようのない独特のニオイ(=組織が2000℃で溶けるときに出るにおい)なんです。 6日以降当院の外来に見えられた飼い主さんには、このニオイで不快な思いをさせてしまったのではないかと一同心配しております。大切なワンコの命が助かったということで、今回はお許しください。

7月 ×日(晴)          

急性胃拡張・捻転症候群 その②

さて、徹夜明けでも通常通り仕事です。外来診療に加えて現在入院中の動物の継続治療もあり、なんだかんだ朝から忙しい。それでもなんとか12時までには手術の準備も整いました。

問題は、これからどうやって手術台に載せるか?当院の手術台は特殊な構造の特注品で既製品よりもだいぶ下がるのですが、それでも最低40cmは持ち上げなくては載せられません。結局人力に頼るしかないので、大きめのスポーツタオルで体幹を支えつつスタッフ4人がかりで台にのせ、なんとか手術にこぎつけました。たまたま来た出入りの機械屋に話したら、人間用の担架が余ってるから、そのうちお持ちしますとのとこ。今日欲しかった・・・。

台に載せるまではてこずったものの手術そのものは順調に進み、予定の約90分で終了。想定外のことといえば脾臓の一部に捻転が認められたことくらい。手術も成功、あとは術後管理を慎重に行なうのみ。術後に心房細動や心室性不整脈でコロっといくことがありますから油断できませんが、回復まであと一息です。