11月 ×日(曇)          

今日は休診日。休診日とはいえ入院患者がいるときはまず病院を離れられませんが、久しぶりに入院患者がゼロとなりましたので、思いきって有乳湯(=”うちゆ”と読みます)温泉に行きました(^_^)v。

ここは上田市の隣、青木村にある温泉で、開湯の歴史は古く平安時代にまでさかのぼるとか。温泉は2つの源泉からお湯を引いており、湯船と上がり湯で色が異なり、温泉ファンにはうれしいかぎりです。当然加温加水もなく、温度はやや低め。おそらく38度前後といったところでしょうか。

熱い湯が苦手なワタシには丁度よい湯加減。不思議なことに、低温であるにかかわらず、骨髄までじっくり温まります。事実入浴後も半日はポカポカと体が温かい。周りの建物も明治の面影を残して大変風情があり、まさしく私の好きな”古きよき日本”。

お湯を上がったあとは、帰りがてら上田市の「熊人」でラーメンをいただきました\(~o~)/。ここは全国的にも名の知られたラーメン有名店。ただ、場所が非常にわかりにくい。よく商売が成り立つなあ、と思えるほどの辺境の地。でも味がずば抜けてよいだけに、全国からラーメン通や玄人スジが足繁く通うという。

商売は第一に腕、第二に場所とは、昔の商売人はうまいことを言ったものです。

10月 ×日(曇)          

今日は日本猫のゴンタ君(♂、9歳)が検診にやってきた。ゴンタ君は現在糖尿病をわずらっており、自宅で飼い主さんに注射をしてもらっています。というわけで、今日はゴンタ君の検診日。

ヒトの糖尿病はいまや国民病といわれるほどメジャーな疾患ですが、一方猫の糖尿病は犬に比べて少ないけど、それでも近年よく診る疾患です。獣医学的には、高齢・雄猫(♂)・肥満が3大発生要因とみなされています。

ところでこの猫の糖尿病は不思議なことに、インシュリンによる治療を開始してから数ヶ月で寛解することがあります。早い話がインシュリン投与が不要になるんです(=猫の一過性糖尿病)。こんなことって、ヒトや犬ではありえない!

なぜ猫でこのようなことが生じるのか、実はよくわかっていません。ただ、このまま治ってしまう猫がいる一方で、数年後に再発する猫もいて、その詳しいメカニズムは現在学会でも諸説入り乱れており、統一した見解はありません。

ネコ科の動物は生理機能がヒトや犬とはかなり異なるので、なにかまだ未知の機序が存在するのでしょう。

10月 ×日(晴)          

本日午前は通常の診療をこなし、午後はJAHAの主宰する「神経外科セミナー」に行ってきました。東京会場は高田馬場にある某ビル会議室。講師はコロラド大学のカーティス先生、著名な神経外科の専門医。

講義内容は脊椎や頸部の椎骨に穴を開けたり、骨セメントを使用したり、大きな窓を作ったり、ピンで椎骨同士を連結したり、といった外科分野でもかなりマニアックな内容なので、きっと参加者は少ないだろうと思っていましたが、以外や以外、会場には200人くらいいて、この盛況ぶりには私もちょっとビックリ!神経外科は高度なテクニックを要する難しいものだけに、参加者の旺盛な学習意欲が肌で感じました。有意義な講義内容にホント満足\(~o~)/。

ところで久しぶりに都内に出たので、セミナー終了後は新宿ねぎしで牛タン定食を食べてから、帰路につきました。すこし遅い夕食になったけど、おいしい食事にこれまた満足 \(~o~)/。

クタクタになって帰ってきたら、このような日に限って夜間の急患2件。仲間内ではよく言われていることだけど、つくづく獣医師は肉体労働者だと思う。

10月 ×日(雨)          

見た目がすべて・・・番外編

見た目がすべて・・・とまではいかなくても、見た目でかなり判断できる検査があります。超音波エコーによる診断です。

ヒトの場合は超音波エコーによる検査・診断の歴史が長く、十分な臨床データの蓄積と豊富な経験則から、肝臓の病変などは専門医では、エコー上での観察だけでかなりの精度で腫瘍のタイプまで判別できるという話です。

一方獣医学の分野では、エコーが普及してまだ20年くらいなのでデータの蓄積量が十分でなく、残念ながら、まだまだ見た目がすべて・・・とまではいきません。(もちろん、見た目で即診断が下るものもありますが)。

そこで汎用されるのが、「超音波ガイド下バイオプシー」という技術。はやい話が、エコーのディスプレイ上で特定の臓器や病変を確認しつつ、同時に針を刺してその組織を採取して病理診断にまわすという方法。

イメージとしては、イラク戦争における米軍のピンポイント爆撃に近いものがあります。エコーで目標を定め、キーボードにあるバイオプシーのボタンを押すと、ディスプレイ上に捕らえた目標に向かって目標までの誘導ラインが現れます。

目標までの深度と距離を確認したうえで、今度は定められた角度で体の中心に向かって慎重に針を刺して行く。太い血管や門脈などに当りそうなときは、改めて針を入れる部位を少しずらして出血を回避。最終的に目標に達したら、バイオプシー機器のボタンを素早く押す。これで完了。これを考えた人はほんとうにアタマがいいと思う。

最近は学会などで画像診断といえばCTやMRIばかりですが、個人的には超音波エコーによる検査好きです。エックス線のように被爆を心配することなく、何度でも確認出来ますからね。

10月 ×日(晴)          

見た目がすべて・・・②

「見た目がすべて」という分野が、獣医学にはもうひとつだけあります。臨床からはちょっと離れますが、病理学の世界。
「病理学とはすなわち形態学である」とは、たしか近代病理学の祖にして世界的な病理学者ウィルヒョー(ドイツ)の言葉だったと思う。

学生時代、病理のN教授には実習でしごかれたものです。

N教授:「菊池君、暴走族を見たことあるよね?」

私:「はい、よく夜の湘南にたむろしています。」

N教授:「なぜ彼らが暴走族とわかるんだね?」

私:「え、・・・でも、見るからに暴走族なんで・・・」

N教授:「そう、そこが大切。暴走族は暴走族らしい姿格好で暴走しているからこそ、暴走族なのだ!コタツで静かにミカンをむいていたらどこぞのいい息子で、誰も暴走族とはいわない。
ただし、観察眼を鋭くしてみていたら、その仕草や髪型から、ひょっとするとこいつはただものじゃない、暴走族もしれない、くらいの想像はつくだろう。」

私:「どういうことでしょう?」

N教授:「つまり病理診断もこれとおなじこと。基本は細胞の形態観察からその細胞の振る舞いを読みとること。見るからに悪性腫瘍という細胞が観察されれば診断は容易だが、一見悪性には見えなくとも、実は悪性ということもある。もちろんその逆の場合もある。そこに病理診断の難しさがある。この判断の難しさこそが、みなが病理嫌いになるところ。」
たしかに基礎医学系で病理学はもっとも難解な科目です。

N教授、病理学の大家だけに例え話がスゴイ。以前は暴走族を見るたびにN教授の顔を思い出したものですが、さすがに最近は暴走族自体が減ってしまい、思い出す機会もめっきり減ってしまいました。
なんだか、少し淋しい・・・。

10月 ×日(晴)          

見た目がすべて・・・① 

以前「人間は見た目が9割」みたいな本が話題を集めたことがありましたが、じつは獣医師の診療の現場で、まさしく「見た目がすべて」を実践している分野があります。

眼科です。眼科診療は基本的に肉眼での観察(=といっても、後述する光学機器を通しての観察です)が基本です。

眼の構造や成り立ちは体のほかの部分と比べて極めて特異的であり、じつは”眼科診断の3種の神器”といわれる、双眼スリットランプ・額帯式の双眼倒像鏡・トノペン(眼圧測定器)の使用により、まず9割以上の確率で正確な診断が下せます。

ところがこの”3種の神器”、あまり普及していません。業者によれば全国的な普及率は20%くらいだとか・・・。

都内のように眼科専門医が多く存在する地域なら、かりに”3種の神器”が院内になくても近隣の専門家に紹介すれば済みますが、それ以外の地域(=むしろ、都内のような地域が珍しい)ではそうはいきません。正確な診断を下したうえで治療をおこない、より高度な処置を必要とするものであれば、臨機応変に専門医もしくは大学病院を紹介することになります。

地方都市では眼科診療の割合が比較的少ないうえに、一方で”3種の神器”購入はやっぱりそれなりの高額投資になりますから、病院経営の面から見たら、今後もこれらの機器の普及は難しいのかもしれません。

個人的には、「見た目ですぐに正しい診断が得られること」、「早期治療で視力を失わずに済むケースが多いこと」を考えると、まったく高額投資ではないと思っています。

というのも、正しい診断がなされない為に、正しい治療がなされずに苦しむワンコが田舎では意外なほど多いのです。

先日も緑内障で失明し、さらに痛みがひどく食欲まで減退したクッキーちゃん(柴犬、10歳、♀)がやってきましたが、かかりつけでは結膜炎の治療をしていたということでした。
少なくとも最初の病院で眼圧を測定できたら、鑑別診断として緑内障も考慮したのではないかと悔やまれます。クッキーちゃん、本当に残念 (-_-;)。

10月 ×日(晴)          

今日はシェルティーのミカンちゃんがやってきた。
ミカンちゃんは現在移行上皮癌(TCC)という膀胱頸部に生じた癌の治療中です。 

この癌は非常に治療が難しく、いまだに治療プロトコールが確立されていないもので、唯一その効果が認められている薬物療法がピロキシカムという消炎剤の投与。

外科手術にも限界があり、放射線療法にも反応せず、強力な化学療法剤にも圧倒的に抵抗力を示すワンコのTCCに対して、なぜかピロキシカムという人間用の抗炎症・鎮痛剤がよく効くのである。確かに効くけど、どういった仕組みで効くのかわからない不思議な薬。ワンコに効くことから、改めて近年米国でヒトのTCCに対する臨床データの収集が始まったと言われる変り種。

ただ、やはり癌は癌ですから、このお薬長く使っているとやっぱり効きが鈍くなってきてしまい、ミカンちゃんの場合もこれが目下の私の悩みの種。

来月大野先生(=東大内科准教授)に会う予定があるので、今後の治療方法について直接意見を伺おうと思う。がんばれ、ミカンちゃん!

10月 ×日(晴)          

2年に1度の免許更新の時期がやってきた。といっても運転免許の更新じゃありません。麻薬免許の更新です。

なぜか世間には、医師免許や獣医師免許さえあれば麻薬を自由に扱えると誤解されている人が多いようですが、実際は医師免許や獣医師免許といった国家資格を有することは麻薬免許取得の最低条件であり、その上で医師の健康診断書や諸々の書類審査を経て都道府県単位で交付されるのが麻薬免許。

だから獣医師免許は国務大臣の管轄になりますが、一方麻薬免許は知事の管轄。都道府県によって若干の差はあるようですが、けっこう厳しいモノであることにかわりはありません(ちなみに長野県は厳しい方だと思う)。

免許が交付されてからも管理が大変(=麻薬金庫に厳重に保管、保健所の指導に基づく査察あり)なので、ときどきもう免許は返上しようかな、と思うこともあります。

ただ、末期癌の疼痛緩和・麻酔の安全な導入・快適な術後管理等には欠かせないこともあって、「動物愛護の精神」からも臨床に携わる獣医師は、取り扱いを避けて通れないのが実情。これから年末にかけて、病院の事務が忙しくなります。

9月 ×日(霧)          

日頃のスタッフの仕事ぶりに感謝しつつ、今日はスタッフと慰労会を兼ねての美食会です(^_^)v。

わたしが言うのも変ですが、当院のスタッフはみんな性格が良くて、仕事が出来るので最高です(もちろんお世辞じゃありません)。

先日も取引銀行の支店長さんに会った際、
「先生のところの受付の方は皆さん感じが良いですね。電話で取り次いで頂く時もすごく好感がもてますが、直接ご指導されるんですか?」
と訊かれたことがありました。

「いえいえ、私が指導することはありません。私自身、電話対応が苦手ですから。」と応えましたが、これって謙遜じゃなくてホントです。

私が指導しなくても臨機応変に対応出来るのは、うちはスタッフがみんな長く勤めてくれるので、スタッフ自身にそれなりのノウハウや蓄積があるためだと思います。結婚しても退社せず、継続してトリマーなりAHTなりの仕事にベテランのワザで取り組んでもらえるのは、病院にとって本当にありがたい事です。
武田信玄じゃないけど、「人は城、人は石垣」というコトバは意味が深いですね。

というわけで、前置きが長くなりましたが、今日は鶏料理の美味しいお店「鶏味座(とりみくら)」さんへGO!

ちなみに個人的な意見ですがここの「究極の焼き鳥丼」が超おすすめの逸品!しばらく食べていないと、夢にまで出てきます。

軽井沢はだいぶ寒くなってきたから、今度来たらしゃも鍋にしようかな。

8月 ×日(霧)          

まだ都内で代診をしていた頃、整形外科を得意とする先生の病院を何件か訪ねたことがありました。整形外科の分野で、指導的立場で活躍している先生は今も昔もみな恐ろしく似通っています。

その特徴を一言で言い表すなら、「せっかちでわりと短気なのに、なぜか例外なく釣りが好き!」という一点に尽きます。

気が短いのにどうして静寂が要求される釣りに凝ってしまうのか理解に苦しみますが、ツールマニアという点では整形外科と共通する何かがあるのかもしれません。

かつて、そのスジの権威である●山先生(=当時A大学整形外科)が中型犬の前十字靭帯断裂の整復手術に、釣り糸であるリーダー糸を使っているのをみて驚いたことがありました。いくらなんでも仕事に趣味の品を入れちゃっていいんかなあ・・・、と思ったけど、先生いわく「人間用の人工靭帯やら特注のナイロン糸やら輸入硬膜の加工品やらをさんざん使ってみたけど、これに優る材質はないんだよな~」

いざ自分が使ってみると、硬さといい、しなり具合といい、これが実にいい感じなんです。今ではこのリーダー糸(もちろん釣り糸)を使う方法が標準的な手術手技として確立されてます。

●山先生、その後大学を辞して名古屋で動物専門の整形外科病院を開業されました。「東日本の大御所」として今も現役で活躍されています。名古屋に行くことがあったら、一度お訪ねしたいな~。(*^_^*)

ところで東の大御所が●山先生なら、西の大御所は●口先生です。この先生、腕は超一流ですが、なにせ辛口で個性的!というかものすごい毒舌なんです(怖くてこれ以上書けない)。

でもね、在野にあっても田舎に居ても間違いなく大学の専門医以上のメスさばきですから、誰も何もいえない・・・。

いうなれば●口先生は獣医界のブラックジャックです。もっともちゃんと獣医師免許はお持ちのようですが・・・。