12月  ×日(晴 )          

今年もよく働きました・・・

今年も残すところあとわずかとなりました。毎年年末になると感じることですが、本当にあっという間の一年でした。
我ながら、今年もよく働いたな~、と感心することしきりです。

今年はいろいろな意味で獣医師が注目された一年でした。
薬物がらみの不祥事から小栗旬扮する獣医のドラマに至るまで、ホントいろいろありましたが、先日スタッフと忘年会で飲んでいたら隣のテーブルのオヤジ集団から、「うちの子は将来は資格のある仕事に就けたい、できれば獣医師か弁護士にしたいなあ~!」という雄たけびが聞こえてきた。

不況下でも資格さえあれば就職に困らないという意味でしょうか?

人生って不思議ですね。私は小学生の頃はスピードスケートの選手になりたくて練習に明け暮れ、中学生の頃は小説家を夢みて、高校になって映画俳優を目指していたのに、いつのまにか気がついたら獣医師になっていました。

私自身は過去においてはあまり資格にこだわったことはないけど、動物もこの仕事も大好きなので獣医は天職、今更ながら本当によかったと思う。

12月  ×日(曇 )          

「腹を割って話をする」、という表現がありますが、私は職業柄ワンコやニャンコやウサギちゃんの腹を割る(=手術による開腹)ことは、ほとんど生活の一部になっています。

腹を割ると、当然ことながら、いろいろなものが直接観察できて納得できると同時に、また気になる点も見つけてしまうのですが、ここ最近2~3年で一番気になることは、異常なまでに内臓脂肪の多い動物が確実に増えたこと。

動物の場合、現段階で明確なメタボリックシンドロームの診断基準があるわけではないので科学的な根拠に乏しいものの、個人的には「これってどうなの? 寿命を縮めちゃうんじゃないかな~」と思うほどの状態も結構あります。

もちろん適度な脂肪は必要ですが、過剰な脂肪は動物の体に悪い以上に、手術をする側(=獣医師)泣かせの存在でもあります。

なぜなら内臓脂肪過多の動物では、手術に際し患部の切除をする前にまず周囲の脂肪を除く、あるいは目的の臓器に達する前に脂肪を処理する、といった余分な作業が必要になりますし、時には血管をけっさつするための糸を持った獣医師の手が脂で滑るといった思わぬリスクも生じますから。

最近は私自身、適度な運動を心がけてダイエットに励んでいます。これは健康に留意する、というよりは、手術のたびに過剰なまでの脂肪を見せられているせいかもしれません。

12月  ×日(晴 )          

旧軽井沢地区で野良猫が増えて、大変なことになっています(*_*)。
例年この時期は増えるんですが、今年は異常に増えて、その数なんと20数匹。そのうち子猫~6ヵ月未満の若い猫が15頭ほど。

軽井沢は、他の地域に比べたら動物の管理に対し意識の高い人が圧倒的に多いのですが、その反面夏の間だけ餌付けして、秋にはそのまま都内に戻ってしまう人もいて、これが野良猫の大量発生の原因になっているのではないか、そう推測しています。

このまま放置したら恐ろしいくらい増えてしまいそうな勢いなので、鈴猫会のみなさんや軽井沢ペット福祉協会の有志の方々の協力を得て、3者でなんとか18頭まで保護し、当病院で全18頭に血液検査・ワクチン接種・避妊去勢手術を実施しました。

事情が事情だけに、私としても持ち出し覚悟のボランティアで活動していますが、毎年手術しても不幸な子猫が一向に減らないのがとても残念です。

その一方で、この活動に理解を示す方も増えてきて、子猫の里親探しが以前より円滑に運ぶようになりました。

軽井沢が人にとってはもちろん、動物たちにとっても住みやすい町であってほしいと願っています。

11月  ×日(曇 )          

TVドラマ「獣医ドリトル」の影響で獣医師という職業が注目されるようになったせいか、老若男女を問わず、いろんな質問を受けるようになりました。そこでよく受ける質問をあげて、ここにまとめて回答いたします。

Q1.ハムスターの手術って本当にあるの?

A1.はい、あります。さすがに子宮蓄膿症での開腹は通常はありませんが、体表にできた腫瘍を取り除くような外科手術は日常茶飯事。けっして珍しい光景ではありません。
ちなみに哺乳動物でもっとも腫瘍化しにくい組織はヒトの細胞であり、一方最も腫瘍化(→ガン化)しやすい組織はマウスの細胞といわれています。

Q2.ドラマの中で、「日本の獣医療は欧米に比べて10年遅れている!」といわれていますが、本当にそんなに遅れているのでしょうか?

A2.確かに制度としては欧米のほうが専門医制度も確立されており、獣医師に対する社会の受け皿もしっかりしています。ただし、社会的な地位と医療技術の秀逸さとは本来別物。

確かに世界的な権威となると欧米に分があるけど、平均的な獣医療は欧米と比べてもさほど遜色はないと思う。

Q3.小栗旬扮するドリトル(=鳥取先生)のモデルとなった獣医師は実在しますか?

A3.残念ながら実在しませんね。居たらおもしろいけど。ただ、あそこまでハチャメチャでなくても、獣医界にはかなり個性的な人間が多いのは事実。とくに公務員獣医師ならいざしらず、臨床家は自分の腕一本で生き抜いているという自覚の人が結構います。よく言えば自主独立、悪く言えば一匹狼ってとこですかね。

もっとも、成宮君扮するところの花菱先生には明らかにモデルが存在します。獣医師ならだれでも知っている彼、以前はマスコミにもよく登場してフェラーリをぶん回していました。

彼がこの世界でがぜん注目されたのは、もう10年くらい前の文芸春秋の特集「21世紀に活躍が期待される日本人ベスト100人」の一人に選ばれた時。当時政財界から学会の著名人に混じって彼が選ばれた記事を目にした時は私も非常に驚いた記憶があります。

もっとも、その100人の中には、今となってはなんだかよくわからない鳩山元総理をはじめ、?っと思える人も山ほどいたけど、う~~ん、どうなってんだろう???

11月  ×日(曇 )          

飼い主さんに、さまざまな病気への理解を深めてもらえるように、貸し出し用DVDを用意しました。タイトルは以下の通りです。

1.肥満と減量について
2.猫の下部尿路疾患について
3.犬と猫の慢性腎不全について
4.愛犬の心臓病について
5.老齢犬の関節疾患(AO)について
6.猫に多い便秘症と犬に多い下痢症

いずれもわかり易いアニメ形式(平均20~30min)です。
視聴を希望される方には無償で貸し出しますので、スタッフまでお知らせください。

10月  ×日(曇 )          

先日まで酷暑だったのがウソのような軽井沢。
すでに紅葉が見ごろになりつつあります。日中はともかく、深夜~早朝は気温10℃以下まで下がります。

こうなると増えてくるのが「最近咳き込むことがあるんですが・・・」とか、あるいは「なにか喉にモノが詰ったような咳をします」、といった理由での受診。

咳というとすぐに思い浮かべるのが風邪などの呼吸器疾患ですが、じつは咳の原因は大きく分けて以下の2つ。

①呼吸器疾患、
②心疾患、

この2つを鑑別することは非常に重要です。もちろん病院を受診すれば獣医師はその道のプロですから診断は確実ですが、医療機器を使わない飼い主さんサイドでもある程度診断できる方法があります。

まず、愛犬を膝の上に優しく乗せてだっこして落ち着かせてください。
そのうえで、後ろから胸郭に触れて心臓の鼓動(=心拍)を感じてください。

いつもより心臓の鼓動、すなわち心拍数が少ない、もしくは普段より少なめであれば、咳の原因は①呼吸器疾患でしょう。
(→迷走神経優位)

一方、心拍数が明らかに普段より多い場合は、咳の原因は②心不全によるものと考えられます。
(→交感神経優位)

この際、心不全(特にワンコに多い弁膜疾患)の重症度と心拍の増加率はパラレルな関係にありますから、心拍数が多いほど病状は重いとみなします。

ただ、ここで問題・・・ふだんの心拍数を把握していないと、はたして今心拍数が増えているのか、減っているのかの判断に大きな迷いが生じてしまう・・・。

というわけで、普段から愛犬を抱っこして可愛がりましょう。(^_^)v
そして日頃から心拍数(=1分間あたりの心拍数)を数えてみましょう!~o~)

ちなみに上の画像は、外人モデルさんにだっこされる看板犬のりーちゃんです。

10月  ×日(曇 )          

ブドウの美味しい季節になりました。軽井沢のお隣の東御市は、豊富な品種とその美味しさで有名なブドウの産地なので、近日中になじみの農園に行こうかと思っています。

ところでブドウは不思議な果物で、犬が誤って摂取すると重篤な腎不全を生じることが知られています。

ただ、ブドウの中毒はタマネギ中毒ほどはメジャーじゃないようで、先週の週刊文春でも、そこそこ有名なエッセイストの方が愛犬に薬を与える際に、「ブドウと一緒に与えると喜んで飲んでくれる!」、と書いていました。

知らないって、ホント怖いですね。(-_-;)

一方、ブドウに含まれる複数のポリフェノールの中には抗酸化作用が強く薬になるものも多く含まれ、なかでもプロアントシアニジンは動脈硬化や白内障予防に極めて効果的であることが分かっています。

これが、いわゆる「フレンチ・パラドックス(=フランス人はワインを大量に消費するのに、動脈硬化や白内障の発生が先進諸外国に比べて統計上有意に低い)」の成り立つ原因かもしれませんね。

先日このブドウ種子由来のポリフェノールがワンコでもサプリメント扱いで発売されました。もちろん腎不全を引き起こすような有毒成分は含まれていません。

サプリメント扱いなので、残念ながら医薬品のように効能をうたえませんが、個人的には今後獣医療分野では急速に普及するんじゃないかと大いに期待しています。

9月  ×日(晴 )          

今日はトレーニングに行って来ました。
トレーニングといっても肉体を鍛えるものじゃなく、手先の感覚を含め、機器の扱いに慣れるための腹腔鏡操作実習です。
今後腹腔鏡を導入するならば、これは必須のトレーニング。

場所は、内視鏡の世界では世界シェアの8割を占めるといわれる超有名会社のトレーニングセンター。

腹腔鏡の操作は基本的にモニターに映し出された画像のみを見ながらになりますから左右の動きが逆転して、今までの外科手術とは全く感覚が違います。
たとえるなら、ロボットアームで、二次元を三次元に構成しなおして操作する感じ。モニターを通して見るか、直接見るかの違いは非常に大きいのですが、あのUFOキャッチャーに近いものがあります。

実際ウェットラボの合間には、ロボットアームでおはじきやクリップを保持したり、輪ゴムを引っ掛けたりするゲーム感覚に近い機器が何台かスタンバイされていて、確かにゲームセンターのUFOキャッチャーで遊んでいるみたい。

会社のインストラクターいわく、「子供の頃からゲームセンターで遊んだ世代はこれがうまいんですよ~!先生もけっこうゲームセンターに行ってたクチでしょ?」

こういう褒められかたをしたのははじめてです。確かにゲームセンターにはよく行っていたほうだとは思うけど・・・。

8月  ×日(晴 )          

本日、日本を代表する有識者の団体である日本学術会議がホメオパシー療法を否定する会長談話を発表しました。これは大変意義有ることだと感じました。(詳細は以下のサイトでご確認ください)

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d8.pdf

そもそもホメオパシーは全く科学的な根拠のない、非科学的なものを薬として処方するわけですから、見方によっては詐欺です。

最近の獣医学雑誌の学会開催告知欄を見ると、まともな学会に混じって、医師や獣医師、薬剤師にホメオパシー関連講座への参加を促すようなあやしい内容もちらほら。

そのせいか、ここ1,2年は動物病院でもホメオパシー療法の実践やホメオパシー療法専門をウリにするという、理解しがたい獣医師まで現れる始末。

何のために大学で獣医学を6年間もかけて学んできたのか、もう一度原点に立ち返って、じっくり考えてもらいたいものです。

これに惑わされる飼い主さんはほんとうにいい迷惑だし、ガンなどの命にかかわる疾患なら、間違いなく助かる命も助からない・・・。

ホメオパシーは医療ではありません。「伝統医療」を名乗っていても、漢方や鍼灸とは本質的に異なるものです。
みなさん、絶対に惑わされないでください。

8月  ×日(晴 )          

今日は秋田犬の良太君(♂・1才半)が頸部を腫らせてやってきた。聞けば、散歩の途中でヘビに咬まれたとのこと。

その腫れがあまりに酷く、さすがに私もちょっとビックリ!
時間の経過とともに腫れが頸から顔まで及び、人相(犬相?)まで変わるくらいのひどい状態。しかもキズ口からの出血が受傷後6時間たっているのにもかかわらず、止まる気配がありません。まいったなこりゃ、即入院です。

いままでヘビに咬まれたわんこも多々診てきたけど、今回の良太君は今まででも一番過酷な状態かも。飼い主さんがパニックに陥るのも無理はありません。

おそらく今回はマムシによるものでしょう。佐久地方に生息する毒ヘビとしては、マムシとヤマカガシが有名ですが、ヤマカガシの毒は基本的に溶血毒ですから、せいぜい腫れてもソフトボール大です。

さいわい良太君は大型犬ですし体力もありますから、マムシに咬まれても適切に治療して処置を誤らなければ死ぬことはありませんが、小児頭大まで腫れた頚部が気管を圧迫して呼吸に悪影響を及ぼすようなら、今後一時的な気管切開も必要かもしれません。
マムシ、おそるべし!