10月  ×日(曇 )          

先日まで酷暑だったのがウソのような軽井沢。
すでに紅葉が見ごろになりつつあります。日中はともかく、深夜~早朝は気温10℃以下まで下がります。

こうなると増えてくるのが「最近咳き込むことがあるんですが・・・」とか、あるいは「なにか喉にモノが詰ったような咳をします」、といった理由での受診。

咳というとすぐに思い浮かべるのが風邪などの呼吸器疾患ですが、じつは咳の原因は大きく分けて以下の2つ。

①呼吸器疾患、
②心疾患、

この2つを鑑別することは非常に重要です。もちろん病院を受診すれば獣医師はその道のプロですから診断は確実ですが、医療機器を使わない飼い主さんサイドでもある程度診断できる方法があります。

まず、愛犬を膝の上に優しく乗せてだっこして落ち着かせてください。
そのうえで、後ろから胸郭に触れて心臓の鼓動(=心拍)を感じてください。

いつもより心臓の鼓動、すなわち心拍数が少ない、もしくは普段より少なめであれば、咳の原因は①呼吸器疾患でしょう。
(→迷走神経優位)

一方、心拍数が明らかに普段より多い場合は、咳の原因は②心不全によるものと考えられます。
(→交感神経優位)

この際、心不全(特にワンコに多い弁膜疾患)の重症度と心拍の増加率はパラレルな関係にありますから、心拍数が多いほど病状は重いとみなします。

ただ、ここで問題・・・ふだんの心拍数を把握していないと、はたして今心拍数が増えているのか、減っているのかの判断に大きな迷いが生じてしまう・・・。

というわけで、普段から愛犬を抱っこして可愛がりましょう。(^_^)v
そして日頃から心拍数(=1分間あたりの心拍数)を数えてみましょう!~o~)

ちなみに上の画像は、外人モデルさんにだっこされる看板犬のりーちゃんです。

10月  ×日(曇 )          

ブドウの美味しい季節になりました。軽井沢のお隣の東御市は、豊富な品種とその美味しさで有名なブドウの産地なので、近日中になじみの農園に行こうかと思っています。

ところでブドウは不思議な果物で、犬が誤って摂取すると重篤な腎不全を生じることが知られています。

ただ、ブドウの中毒はタマネギ中毒ほどはメジャーじゃないようで、先週の週刊文春でも、そこそこ有名なエッセイストの方が愛犬に薬を与える際に、「ブドウと一緒に与えると喜んで飲んでくれる!」、と書いていました。

知らないって、ホント怖いですね。(-_-;)

一方、ブドウに含まれる複数のポリフェノールの中には抗酸化作用が強く薬になるものも多く含まれ、なかでもプロアントシアニジンは動脈硬化や白内障予防に極めて効果的であることが分かっています。

これが、いわゆる「フレンチ・パラドックス(=フランス人はワインを大量に消費するのに、動脈硬化や白内障の発生が先進諸外国に比べて統計上有意に低い)」の成り立つ原因かもしれませんね。

先日このブドウ種子由来のポリフェノールがワンコでもサプリメント扱いで発売されました。もちろん腎不全を引き起こすような有毒成分は含まれていません。

サプリメント扱いなので、残念ながら医薬品のように効能をうたえませんが、個人的には今後獣医療分野では急速に普及するんじゃないかと大いに期待しています。

9月  ×日(晴 )          

今日はトレーニングに行って来ました。
トレーニングといっても肉体を鍛えるものじゃなく、手先の感覚を含め、機器の扱いに慣れるための腹腔鏡操作実習です。
今後腹腔鏡を導入するならば、これは必須のトレーニング。

場所は、内視鏡の世界では世界シェアの8割を占めるといわれる超有名会社のトレーニングセンター。

腹腔鏡の操作は基本的にモニターに映し出された画像のみを見ながらになりますから左右の動きが逆転して、今までの外科手術とは全く感覚が違います。
たとえるなら、ロボットアームで、二次元を三次元に構成しなおして操作する感じ。モニターを通して見るか、直接見るかの違いは非常に大きいのですが、あのUFOキャッチャーに近いものがあります。

実際ウェットラボの合間には、ロボットアームでおはじきやクリップを保持したり、輪ゴムを引っ掛けたりするゲーム感覚に近い機器が何台かスタンバイされていて、確かにゲームセンターのUFOキャッチャーで遊んでいるみたい。

会社のインストラクターいわく、「子供の頃からゲームセンターで遊んだ世代はこれがうまいんですよ~!先生もけっこうゲームセンターに行ってたクチでしょ?」

こういう褒められかたをしたのははじめてです。確かにゲームセンターにはよく行っていたほうだとは思うけど・・・。

8月  ×日(晴 )          

本日、日本を代表する有識者の団体である日本学術会議がホメオパシー療法を否定する会長談話を発表しました。これは大変意義有ることだと感じました。(詳細は以下のサイトでご確認ください)

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d8.pdf

そもそもホメオパシーは全く科学的な根拠のない、非科学的なものを薬として処方するわけですから、見方によっては詐欺です。

最近の獣医学雑誌の学会開催告知欄を見ると、まともな学会に混じって、医師や獣医師、薬剤師にホメオパシー関連講座への参加を促すようなあやしい内容もちらほら。

そのせいか、ここ1,2年は動物病院でもホメオパシー療法の実践やホメオパシー療法専門をウリにするという、理解しがたい獣医師まで現れる始末。

何のために大学で獣医学を6年間もかけて学んできたのか、もう一度原点に立ち返って、じっくり考えてもらいたいものです。

これに惑わされる飼い主さんはほんとうにいい迷惑だし、ガンなどの命にかかわる疾患なら、間違いなく助かる命も助からない・・・。

ホメオパシーは医療ではありません。「伝統医療」を名乗っていても、漢方や鍼灸とは本質的に異なるものです。
みなさん、絶対に惑わされないでください。

8月  ×日(晴 )          

今日は秋田犬の良太君(♂・1才半)が頸部を腫らせてやってきた。聞けば、散歩の途中でヘビに咬まれたとのこと。

その腫れがあまりに酷く、さすがに私もちょっとビックリ!
時間の経過とともに腫れが頸から顔まで及び、人相(犬相?)まで変わるくらいのひどい状態。しかもキズ口からの出血が受傷後6時間たっているのにもかかわらず、止まる気配がありません。まいったなこりゃ、即入院です。

いままでヘビに咬まれたわんこも多々診てきたけど、今回の良太君は今まででも一番過酷な状態かも。飼い主さんがパニックに陥るのも無理はありません。

おそらく今回はマムシによるものでしょう。佐久地方に生息する毒ヘビとしては、マムシとヤマカガシが有名ですが、ヤマカガシの毒は基本的に溶血毒ですから、せいぜい腫れてもソフトボール大です。

さいわい良太君は大型犬ですし体力もありますから、マムシに咬まれても適切に治療して処置を誤らなければ死ぬことはありませんが、小児頭大まで腫れた頚部が気管を圧迫して呼吸に悪影響を及ぼすようなら、今後一時的な気管切開も必要かもしれません。
マムシ、おそるべし!

7月  ×日(晴 )          

小鳥の診療・・・その②

ここ5~6年で小鳥の診療は劇的に進化しました。

私の学生時代はもちろん、都内で代診していた頃は院長から、「小型鳥類(特に体重40g以下の鳥)には絶対筋肉注射をしてはならない」と厳命されていたものです。なぜなら、「注射の痛みで容易にショック死するから。」
これ当時の医学的常識。

ところがそんな中でも、古くから都内で小鳥の専門病院を開いていたT先生は積極的な治療で知られ、カナリアやセキセインコ、文鳥に対し筋肉注射どころか、なんと麻酔まで自由に使いこなしていました。

小鳥の診療では大変有名な先生で、十数年前の話ですが、あるTVドラマの中で、亡くなった小鳥がキリストのごとく復活して、大空に飛び去るシーンの撮影にT先生の麻酔技術が使われて、小鳥を熱心に診療する獣医師の間では、おそらくケタミン(注射用麻酔薬/麻薬)を希釈して注射したのではないか、と話題になりました。

私は晩年のT先生しか知りませんが、何回か東獣の主宰する講習会に参加した際、「鳥は皆さんが思っている以上に丈夫な生き物です。積極的に治療してください。」と口癖のように言っていたことを思い出します。

そのT先生も、もう亡くなられて久しい。
先生の遺志が後進に伝わったのか、あるいは時代の要請なのかわかりませんが、いまや小鳥の診療は「筋肉注射当たり前、必要に応じて点滴まで行なわれる時代」になりました。
現代は、小鳥にとってはかつて無いほど幸せな時代だと思う。

7月  ×日(晴 )          

小鳥の診療・・・その①
今日はセキセインコのスピーチちゃん(♂・1才半)がやってきた。最近ろう膜(くちばしの根元のお肉の盛り上がったところ)の色が変わってきて心配とのこと。

セキセインコの場合、ろう膜の色で性別を判定しますが、スピーチちゃんは♂なので、もともとキレイな青色でした。
ところがここ1カ月で青が薄くなり、かなり肌色に近い状態。

困りましたね、これは。
セキセインコの場合に限っては、オスのろう膜の変化は明らかに内分泌疾患の兆候。その原因のほとんどは精巣の腫瘍化。

腫大化した精巣はレントゲンで確認できますが、痩せている子の場合、強い光源でお腹を透かすことでも確認できます。

スピーチちゃんの場合、かなり腹部も大きくなっており、およそ触診でも診断がつくレベル。

ここまでいくと、治療はかなり難しい。(>_<) 根治を望むなら手術ですが、小型の鳥類は麻酔が非常に困難。結局内科的な治療で対応せざるを得ないのが現実。 それにしても最近このような症例を多く診ます。個人的な感想ですが、なんらかの環境因子(化学物質?)を考えざるを得ない。とっても不安です。

7月  ×日(晴 )          

この時期涼しいはずの軽井沢ですが、連日30度越えです。

暑苦しいのと早朝からのヘリの大音響で目が覚めた。
何事かと思ってTVをつけて確認したら、うちからわりと近い場所にある鳩山別荘に、韓国からキム・ヒョンヒ元死刑囚を迎えているらしい。そうか、この騒音は警備のヘリなんだ。それにしても朝から騒々しいな~。

こんな時は仕事に限ります。なぜなら1Fの病院エリアは動物の入院施設や併設ホテルがありますから、防音・断熱構造に加え徹底的な温度・湿度管理がなされており、実に静かで気持ちのいい環境。仕事もはかどるのだ。

一方2Fの自宅エリアといえば、さすがに病院エリアほどの重厚な防音・断熱構造はありませんし、差し込む日差しが大変強く、空調設備が24時間稼動していても、病院ほど快適ではありません。

というわけで、夜までうるさかったら今夜は病院のワンコ用ホテルで寝ようかな。

7月  ×日(曇 )          

軽井沢も日中30度を越える暑い日が続いています。
こうなると途端に増えるのがワンコの外耳炎です。

以前はワンコの外耳炎といえば、アメリカンコッカーなどに代表される「好発犬種」がある程度限られていましたが、なぜか最近は犬種による偏りは少なく、むしろあらゆる犬種に満遍なく発生している感じ。
犬種にかかわらず、私たちの想像以上のレベルでワンコの体内では免疫力の低下が生じているのかもしれません。だとしたら状況は深刻です。

一方、以前は臨床症状から、外耳炎の原因となる細菌や真菌(酵母様菌)を推定できることも多く、治療に際し抗菌剤の選択で迷うことは少なかったのですが、最近は多くの抗菌剤に抵抗を示す細菌がとても増えてきました(多剤耐性菌)。

実際、薬剤感受性試験で「有効な抗生剤」を探そうにも、「あらゆる抗菌剤に完全な抵抗性をもつ細菌(=有効な抗生剤が無い!)」も珍しくありません。

このような耐性菌の存在は以前から知られていましたし、特定の抗生剤とこれに対する耐性菌の出現はいわば「永遠のイタチゴッコ」といえなくもないのですが、この急速な広がりを考えると、こちらも深刻!

外耳炎といえどもより慎重に治療する必要がありそうです。

6月  ×日(雨 )          

今日はうさぎのミミちゃん(4才・♀)がやってきた。
以前当院で子宮蓄膿症の手術を受けた子ですが、これをきっかけにかなりの肥満体になってしまい、現在ダイエット中!

動物病院でダイエットをすすめるといえば犬や猫が圧倒的に多いのですが、最近はうさぎの肥満も非常に深刻です。

本来うさぎは野生では木の根のようなローカロリー・高繊維食を基本に生きていますが、いまのペット化されたうさぎの食事は明らかにハイカロリー・低繊維食にシフトしていますから、太るのも当然の成り行きです。

当然太っていいことはなく、さまざまな疾患を生じます。
ただ、うさぎは皮下脂肪が付きにくい一方、内臓に脂肪を溜め込む傾向が強いので、飼い主さんの中には「肥満です」と指摘されてもいまいち実感が湧かないようです。

とはいえ、日常的にうさぎを診療している獣医師に指摘されたら明らかに肥満なので、いままでの食事を見直す必要はあります。

さいわいな事に、うさぎは勝手に冷蔵庫を開けて自分で食べ過ぎることはないわけで、飼い主さんがうさぎの食事をちょっと見直すだけで効果的にダイエットが可能です。
そのポイントは以下の3点のみ。

1.食事の内容をアルファルファからチモシーに替える。
チモシー(イネ科の牧草)のほうが、よりローカロリー・低脂肪でうさぎの食性にあっています。ペレットもチモシーを主原料にしたものに替えればさらに効果的!

2.ペレットは量を決めて与える。ペレットでお腹が満たされるとチモシーや野菜を食べなくなり、異常発酵~消化器疾患を誘発します。

3.与える野菜はあくまで緑黄色野菜(水菜、チンゲン菜、小松菜など)にこだわり、人参やイモの類は最小限にしましょう。
炭水化物を含む食事は肥満の元です。

というわけで、ミミちゃん、ダイエットがんばってね。(^O^)